“人間失格”だと
わかってもトランプ支持
今回の選挙は「トランプか?バイデンか?」ではなく、「あと4年、トランプでいいのか」という選挙だった。つまり、トランプの対立候補は誰でもよかった。
ともかく「親トランプ」か「反トランプ」で態度を決めればよかった。どう見ても、どうしてもバイデンになってほしいという有権者は少なかった。
とすると、ここまでトランプが大善戦したことに、ぞっとするようなものを感じないだろうか?
アメリカ国民の約半分が、トランプが大統領でいいとしたのである。
前回の大統領選挙では、誰もがトランプのことをよく知らなかった。とんでもないナルシストで、他人を信じず、品がなく、女性蔑視で白人優位主義者のうえ、フェアプレー無視の“ディール男”だと、詳しくは知らなかった。
変わったセレブ・オヤジだけど、「メイク・アメリカ・グレート・アゲン」を掲げる愛国者ぐらいに思っていた。
しかし、今回は違う。この4年間、横暴、デタラメ、ウソ、スキャンダル、インチキ外交、同盟国無視、環境無視を、アメリカ国民(世界中も)はこれでもかと見せつけられてきた。これでは、大統領としてはもとより、人間としても失格だとわかったはずである。
それなのに、国民の半数がトランプに投票したのだ。しかも、フロリダやテキサスでは、前回より、黒人票、ヒスパニック票を増やしている。
これはすごいことではないだろうか。
将来を担う若い世代は
誰を支持したのか?
では、バイデンはどうして勝てたのだろうか?
それは、バイデンのほうがトランプよりもマシだ。77歳でロートル、政策はあいまいでリーダーシップも感じられないが、それでも仕方がないと、無党派の若い世代が投票したからだろう。
今後のアメリカを担う若い世代は、バイデンなどほとんど支持していない。民主党支持の「ミレニアル世代」と学生ローンの返済に苦しむ「ジェネレーションZ」に限っては、その多くが、社会主義者を標榜するバニー・サンダーズの支持者だった。彼らは、バーニーが候補者になれなかったので仕方ないと、バイデンに入れたのだ。
また、多くの女性たちは、トランプが「ポカホンタス」とバカにした左派のエリザベス・ウォーレンや中道派のエイミー・クロブシャー、カマラ・ハリスを支持していた。それで、バイデンが「ランニングメイト」(副大統領候補)にカマラ・ハリスを選んだので、結局、バイデンに投票することになった。
誰も積極的にバイデンを支持したわけではないのだ。
ところがバイデンは、トランプから「スリーピー・ジョー」と言われたように、認識力が落ちている可能性がある。となると、自分が本当に勝ったと思い込んでしまいかねない。バイデン大統領の今後は、暗雲がたちこめている。
民主党も共和党も
変わらずに“分断”は続く
予備選を見ながら、ずっと思ってきたのは、民主党がいかにバラバラなのかということだ。しかも、最終的にバイデンを選んでしまうほど、人材が枯渇していて、時代からズレているということだ。
(P00に続く)
民主党は、急進左派(プログレッシブ)、左派(レフト)、中道派(ニュートラルズ)、右派寄りの中道派(センターライト)などイデオロギー的に分裂している。しかも、予備選の候補者を見ればわかるように、人種的にも白人から非白人系まで多種多様だ。
しかも、民主党は腐敗している。トランプが攻撃した「ウクライナゲート」、いわゆるウクライナがバイデンの圧力に応じて2016年の大統領選に介入し、ヒラリー・クリントンのために動いたというスキャンダルも、完全に「白」とは言えない。息子のハンター・バイデンのスキャンダルも同じだ。腐敗したエスタブリシュメントが、共和党より民主党に多いのは事実である。
さらに、アメリカの本当の権力「軍産複合体」、最近では「ディープステート」と呼ばれる影の政府は、民主党を操っているとされている。また、ウオール街マネーも多くが、民主党支持で、献金額も共和党を上回っている。
トランプは、民主党とメディアを「ワシントンの腐敗した勢力」と呼んで攻撃してきたが、これを単に「陰謀論」とできないところが、大国アメリカの複雑なところだ。
したがって、いくらバイデンが大統領になってホワイトハウス入りしたとしても、民主党が一つにまとまるわけでもなければ、エスタブリシュメントの腐敗が止まるわけではない。
さらに、トランプの岩盤支持層はそのままだし、「ミリシア」や「Qアノン」などの“愛国軍団”も、変わりなく活動を続けていくだろう。「オルタナ右翼」も健在だ。トランプに乗っ取られてしまった共和党が、「リバタリアニズム」の理想に戻れるわけがない。
つまり、アメリカの“分断”は続き、アメリカ国民は負け続ける。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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