連載441 山田順の「週刊:未来地図」アメリカ大統領選挙総括: バイデン大統領でもアメリカの“分断”は続く!(下)

虚しく響いたバイデンの「勝利宣言」

 このような見方で、バイデンの「勝利宣言」を振り返ると、私は虚無感に囚われる。無邪気に「感動した」と言っていたコメンテーターがいたが、信じがたい。

 バイデンは「確信できる勝利だ。国民は7400万以上の票をもって私を当選させてくれた」と述べ、続けて、民主、共和の両党の有権者から幅広く支持を得たとし、さらに、白人だけでなくヒスパニックや黒人など多様な人種からも得票できたことに感謝の意を表明した。

 しかし、これは“嘘”ではないか。

 今回、民主党は、黒人票もヒスパニック票も、かなりを共和党に奪われている。

 バイデンはまた、こう高らかに宣言した。

「私は“分断”ではなく“結束”を目指す大統領になる。赤い州も青い州もない。あるのは合衆国だけだ」

(I pledge to be a president who seeks not to divide but unify, who doesn’t see red states and blue states, only sees the United States.)

 しかし、大勝したなら別だが、僅差で勝ったぐらいでは、アメリカの“分断”は解消できない。

 さらに、バイデンは、「アメリカを再び世界から尊敬される国にする」と述べ、「アメリカは世界の光だ。模範としての力によって(世界を)導いていく」と強調した。しかし、アメリカのインテリ層は、彼がそんなことを一朝一夕できるわけがないと知っているはずだ。

 バイデンに先だって行われた、副大統領となるカマラ・ハリス上院議員の演説のほうが、はるかによかった。

「私は副大統領になる初めての女性かもしれませんが、最後ではありません」と述べ、子供たちに私に続くように示唆した。そして、アメリカは「可能性の国」(a country of possibilities)だと強調した。

(While I may be the first woman in this office, I will not be the last, because every little girl watching tonight sees that this is a country of possibilities.)

 「可能性の国」。これだけは、本当だ。

 

NYタイムズスクエアのお祭り騒ぎ

 ここ数年、秋になると私はニューヨークに行き、マンハッタンで過ごすことが多かった。しかし、今年はコロナ禍で、日本から一歩たりとも出られない。

 思い出すのは4年前、トランプが大統領選に勝利したとき、エンパイアステート・ビルにその結果(票数)が電光表示されると、街全体が“哀しみ”に沈んだことだ。

 翌日、知り合いのアメリカ人はみな無口だった。別に、民主党を支持しているわけではない。トランプだけは支持できない。それだけだった。

 都市部のインテリ層は、みな民主党支持者とされる。これは、じつにステレオタイプの見方だが事実である。とくにニューヨークには、トランプ支持者はほとんどいない。マンハッタンのエリートたちは、スタバでカフェオレを注文し、「NYタイムズ」を読んで、いかにトランプがダメな大統領かを確認する。

 ただ、私はスタバのカフェオレが4ドル以上もするので、「プレタ・マンジェ」の2ドルほどのレギュラーコーヒーを飲み、毎朝、ケイタイでニュースを見ていた。

 2年前の中間選挙で、民主党プログレッシブ(極左)のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス候補が、史上最年少で下院議員に当選したときは本当に驚いた。彼女は、つい昨日まで、ブロンクスでバーテンダーをやっていた。

 今回の下院選でも、彼女は圧倒的な支持を得て当選した。ただし、ニューヨーク州全体では、民主党候補は共和党候補に追い上げられた。「反トランプを強調するだけで中身がなかった」と批判されている。

 バイデンが勝利確実となると、タイムズスクエアに大勢の人々が集まった。現地からの報道を見ていると、歌って踊って騒いでいる。そして、「ユーアーファイアード!」(お前はクビだ!)と叫んでいた。『アプレンティス』でトランプを有名にした決め台詞だが、さしずめ日本流に言えば「倍返し」だろう。まさにお祭り騒ぎだ。

 このお祭り騒ぎのなかに、ニューヨーク州選出の民主党上院議員チャック・シューマーがいて、「アメリカの暗黒の時代は終わった」と述べていた。

 しかし、私は、アメリカの暗黒時代は終わらないと思う。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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