連載443 山田順の「週刊:未来地図」「バイデン・菅」で危うくなった日本の安全保障(上)

 遅ればせながら、菅義偉首相はジョー・バイデン次期アメリカ大統領と「電話会談」(?)を行い、祝意を伝えた。(編集部注:このコラムの初出は11月17日)そして、「尖閣諸島は日米安保の適用範囲」という言質を取ったと報道された。しかし、これは本当なのだろうか? また、その後、加藤勝信官房長官が、竹島と北方領土は安保の適用外と発言したので、日本の安全保障に対しての不安が高まっている。

 バイデン次期大統領の対中政策も不透明だが、菅首相の外交スタンスもまだよくわからない。

 これでは、日本の行く末が本当に心配だ。

「電話会談」で尖閣防衛の言質を取る

 11月12日、正午と午後7時のNHKニュースは、菅総理がバイデン次期アメリカ大統領と「電話会談」を行ったことトップで伝え、その内容を次のように報じた。

《菅総理大臣はバイデン前副大統領と初めての電話会談を行い、日米同盟の強化で一致し、沖縄県の尖閣諸島がアメリカによる防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲であることを確認しました。》

《冒頭、菅総理大臣は、バイデン氏と副大統領候補のハリス上院議員に祝意を伝えたうえで、「日米同盟は、厳しさを増すわが国周辺地域と国際社会の平和と繁栄にとって不可欠であり、一層の強化が必要だ。自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、連携していきたい」と述べました。》

《これに対し、バイデン氏は「日米安保条約5条の尖閣諸島への適用について、コミットする。日米同盟を強化し、インド太平洋地域の平和と安定に向けて協力していきたい」と応じ、両氏は、日米同盟の強化で一致するとともに、沖縄県の尖閣諸島がアメリカによる防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条の適用範囲であることを確認しました。》

  これを聞いて、私は耳を疑った。電話会談とは言うが、それは「電話連絡」にすぎない。それも、大統領選挙での勝利に対しての祝意を伝えることが主目的で、時間にして十数分。しかも、菅総理は英語をまったく話せないし、理解できない。

 それなのに、こんな重要なことにまで、本当に踏み込めたのだろうか? そう思ったからだ。 

 ただし、この日、菅総理は記者会見で、確かにこう述べていた。「バイデン次期大統領からは、日米安保条約5条の尖閣諸島への適用についてコミットメントする旨の表明がありました」

 となると、バイデンが「コミット」と言う言葉を使ったのは事実だろう。

バイデンのサイトに尖閣の文字はナシ

 今年、尖閣諸島周辺では、中国海警局の武装船による領海侵入が恒常化してしまった。領海内での連続滞在時間が最長を記録したうえ、接続水域での航行は年間最多を更新した。もはや、日本は中国に完全になめられているといっていい。

 そのため、ここでなんとかして、アメリカ次期大統領に警告を出して欲しい。この切実な願いを、バイデンは聞き入れたと考えられる

 ところが、バイデンの政権移行チームのサイトにアップされた発表文には、尖閣の「せ」の字もなかった。次がその文面だ。

The President-elect underscored his deep commitment to the defense of Japan and U.S. commitments under Article V, and he expressed his strong desire to strengthen the U.S.-Japan alliance even further in new areas.

 この声明文は、確かに安保条約第5条(to the defense of Japan and U.S. commitments under Article V)にコミットメントするとしている。ただ、それは「日米同盟の強化」(strengthen the U.S.-Japan alliance)に対してだ。

 となると、本当にバイデンが「センカク」と言ったかどうかは極めて怪しい。日本側が、「尖閣を含めて」というような言い方をし、それに対してバイデンが「コミットする」と言ったにすぎないのではないか。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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