連載444 山田順の「週刊:未来地図」「バイデン・菅」で危うくなった日本の安全保障(中)

外務省サイトにある詳しすぎる説明

 そう思わせるのが、外務省のサイトにアップされた「菅総理大臣とバイデン次期米国大統領との電話会談」という発表文だ。これは、バイデン側よりはるかに詳しく、経緯が述べられている。つまり、日本側があれこれ言い立て、それに対してバイデン側が「うん、うん」と応じただけと推察できる。

 以下、引用する。

《11月12日午前8時20分から約15分間、菅義偉内閣総理大臣は、ジョセフ・バイデン次期米国大統領(The Honorable Joseph R. Biden, President-elect of the United States of America)と電話会談を行ったところ、概要は以下のとおりです。

1、冒頭、菅総理から、バイデン次期大統領及び女性初となるハリス次期副大統領の選出に、祝意を伝えました。

2、その上で、菅総理から、日米同盟は、厳しさを増す我が国周辺地域、そして国際社会の平和と繁栄にとって不可欠であり、一層の強化が必要である旨、

また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて連携していきたい旨述べました。

3、これに対し、バイデン次期大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用についてコミットする旨の表明があり、日米同盟を強化し、また、インド太平洋地域の平和と安定に向けて協力していくことを楽しみにしている旨発言がありました。

4、また、コロナ対策や気候変動問題といった国際社会共通の課題についても、日米で緊密に連携していくことで一致しました。菅総理から拉致問題での協力も要請しました。

5、今後、しかるべきタイミングで調整することになりますが、両者は、コロナの感染状況を見つつ、できる限り早い時期に会おうということで一致しました。》

「日米安保は冷戦の産物」と中国猛反発

 バイデンという政治家は、これまでの言動を見ていると、誰にでもいいことを言う、「キレイゴト政治家」だ。しかも、一度言ったことをけろっと忘れて違うことを言い出すということがしばしばある。

 だから、この程度のことで日本は安心してはいけない。2014年4月、オバマ大統領は、日米首脳会談でアメリカ政府として初めて安保条約の尖閣諸島への適用を言明した。このとき、副大統領だったバイデンも同調した。つまり、今回のことはその延長線上にあるだけだ。

 前回もそうだったが、今回もまた中国政府は猛反発した。電話会談の報道があってすぐに、中国外務省の汪文斌報道官が会見し、その席で言葉を荒立てて日米を非難した。

 中国は、尖閣諸島を「中国の固有領土だ」としているので当然だろうが、毎回、これではうんざりだ。

 汪斌報道官は、中国の「戦狼外交」の忠実なコマの一つだ。次のようなことを、立て続けて言い立てた。

「日米安保条約は冷戦の産物で、第三国の利益を損害すべきではない」

「(日米は)地域の平和と安定に危害を加えるべきでない」

「竹島と北方領土は適用外」と加藤官房長官

 菅首相がバイデンに電話連絡した日の午後、今度は加藤勝信官房長官が記者会見で、日米安保が竹島と北方領土には適用されない旨の発言をした。

「北方領土と竹島は、現実を見れば、わが国が施政を行い得ない状態にある」と述べ、日本が実効支配できていない地域は適用対象外となって、アメリカには防衛の義務は生じないと説明したのだ。

 これに対して、「えーっ」という声が上がり、たとえばひろゆき氏(西村博之)は、ツイッターで「ついに日本の領土である竹島と北方領土を韓国とロシアに渡したことを、官房長官が認めちゃったよ、尖閣諸島を中国にあげちゃうのも時間の問題かな」と批判した。

 しかし、加藤発言は目新しいものではなく、日本政府の公式見解だ。

 前記した日米首脳会談でオバマが尖閣に触れたとき、安倍内閣は、日本の施政下にないところ、すなわち竹島と北方領土は日米安保の適用外ということを

閣議で確認している。

 これを歴史的に言うと、1952年、サンフランシスコ平和条約とともに結ばれた旧・日米安保には、日本の国土に対するアメリカ軍の防衛義務については明記されていなかった。しかも、竹島は1953年から韓国に実効支配されている。つまり、日米安保は、韓国による竹島実効支配より遅れて発効しているわけで、竹島は適用外となってしまうのである。北方領土も同じだ。

 しかし、この論理で行くと、尖閣諸島を中国に実効支配されてしまうことがあれば、自動的に日米安保の適用外になってしまう。したがって、いくらアメリカが適用範囲としても、それは現状追認であり、ことが起こってアメリカが軍事行動を取らなかった場合は、尖閣奪回は不可能になる。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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