ついに、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。世界に先駆けたロシアの「スプートニクV」は別として、12月8日から、英国で「米ファイザー+独ビオンテック」のワクチンの接種が開始された。追って、アメリカでも始まる。(編集部注:このコラムの初出は12月8日)
そこで問題は、これによって新型コロナのパンデミックは収束するのかどうか? 世界は元に戻るのかどうか? ということだ。政治的な思惑も絡んだワクチン接種の動向についてまとめてみた。
「不安」と「陰謀論」で3、4割が接種反対
もしかしたら、ワクチンを接種するかどうか、早くも悩んでいる方もいるかもしれない。なにしろ、まだ安全であるかどうかもわからない。「見切り発車」の感が否めないからだ。
それに、「陰謀論」によると、ワクチンは世界政府(NOW:ニューワールドオーダー)による「人類家畜化」の道具である。信じるか信じないかは別として、ワクチンには確かにそういう側面があるのは事実だ。
そのせいか、アメリカでは、接種に賛成する人が58%で、反対する人が42%という結果が出ている(ギャラップ調査)。日本の同様な調査でも、約3割の人が安全性への懸念などから「接種を受けないかもしれない」と回答している。
しかし、いまさらそんなことは言っていられないというのが、多くの人の本音だろう。もう私たちは、1年も「新しい日常」生活を余儀なくされ、窒息寸前だからだ。ワクチンを打って「抗体」を獲得できれば、自由になれる。マスクを外し、どこにでも行ける。
日本で接種が始まるのは、来年からだが、始まれば、多くの人が殺到するに違いない。
「ファイザー」「モデルナ」に続くのは?
ではまず、現在、接種が始まったワクチン、今後、始まる予定のワクチンをざっと整理してみたい。
WHO(世界保健機関)によると、11月末までの時点で、臨床試験(治験)で有効性や安全性を確認中のワクチンは48種類。そのなかで、ロシアや中国のものを除けば、米ファイザーと独ビオンテックが共同開発中のワクチンが一歩先んじている。これに続くのが、米モデルナである。
「ニューヨーク・タイムズ」の11月27日の記事によると、現在、世界では163のワクチンが開発中で、その内、試験管試験や動物実験中のワクチンが89以上、ヒトを対象にした臨床試験を開始したワクチン候補は74あり、フェイズ1が38、フェイズ2が17、フェイズ3(最終段階の臨床試験)が13、認可(限定使用)されたのが6となっている。
「ブルームバーグ」の報道によると、開発中のワクチンはすでに、少なくとも78億5000万回分が割り当てられていて、多くのワクチンが2回の接種が必要なため、とりあえず世界人口の半分に行き渡るだろうとしている。
では、以下、主なワクチンをまとめてみよう。( )内はワクチンのタイプ。
●米ファイザー+独ビオンテック(mRNAワクチン)
●米モデルナ(mRNAワクチン)
●英アストラゼネカ+英オックスフォード大(ウイルスベクター・ワクチン)
●米ジョンソン&ジョンソン(ウイルスベクター・ワクチン)
●仏サノフィ+英GSK(組み替えタンパクワクチン)
●米ノババックス(ウイルスベクター・ワクチン)
●露ガマレヤ研究所(ウイルスベクター・ワクチン)
●中シノファーム(不活化ワクチン)
●日アンジェス+大阪大学(DNAワクチン)
いまさら聞けないワクチンの基礎知識
この記事を書くにあたって、ワクチンについて改めて調べ、以下、簡単にまとめてみた。現在、私たちは新型コロナと共存している以上、これくらいのことは知っておかなければならないと思う。
まず、現在、開発されている新型コロナウイルスのワクチンは、従来型と新型のものがある。従来型は、これまで数々の感染症に対してつくられたもので、「生ワクチン」「不活化ワクチン」「トキソイド」の3種類がある。新型のものは、「遺伝子ワクチン」と呼ばれるもので、遺伝子を現在の最先端のバイオテクノロジーによって操作してつくる。「DANワクチン」「RNAワクチン」「ウイルスベクター・ワクチン」「組み換えタンパクワクチン」などがある。
《従来型ワクチン》
(1)生ワクチン
生きたウイルスや細菌の毒性を、症状が出ないように極力抑えて、免疫がつくれるぎりぎりまで薄めたもの。弱毒性ワクチン。自然感染と同じ流れで免疫ができるので、1回の接種で十分。麻疹(はしか)、風疹、水痘、BCG(結核)など。
(2)不活化ワクチン
病原体となるウイルスや細菌の感染する能力を失わせた(不活化、殺菌)ものを原材料として、免疫をつくるのに必要な成分だけを製剤にしたもの。1回の接種では免疫が十分にできないので、複数回接種する。インフルエンザ、A型肝炎、百日咳、日本脳炎、ポリオ、狂犬病など。
(3)トキソイド
病原体となる細菌がつくる毒素だけを取り出し、毒性をなくしてつくる。ジフテリア、破傷風など。
《遺伝子ワクチン》
遺伝子研究とそれに伴う遺伝子組み換え技術の急速な進歩で、従来のワクチン開発の手法が一変した。遺伝子ワクチンは、培養や不活性化処理などの時間がかかる従来のやり方とは違い、人工的につくれるため、短期間で大量のワクチンが製造できる。
(1)DNAワクチン
抗原タンパク質の塩基配列をつくる情報を持った「プラスミド(環状)DNA」のワクチン。DNAは遺伝子の設計図。DNAワクチンを接種すると、体内で偽の「スパイク」(ウイルスの遺伝子からつくられたタンパク質)がつくられ、免疫が形成される。
(2)mRNAワクチン
mRNA(メッセンジャーRNA)は、異なるタンパク質を生成するために使用する情報細胞を運ぶ設計図。mRNAワクチンの仕組みはDNAワクチンとほぼ同じ。細胞内で抗原タンパク質をつくらせ免疫を形成させる。
DNAワクチンが大腸菌を宿主にするのに対し、mRNAワクチンは化学合成のみで作成できる。
(3)ウイルスベクター・ワクチン
ヒトに対して病原性のない、または弱毒性のウイルスの「ベクター」(運び手)に、抗原タンパク質の遺伝子を組み込んだ、組み換えウイルスを投与するワクチン。
(4)組み換えタンパクワクチン
ウイルスの構成成分である抗原タンパク質を昆虫細胞や植物、哺乳動物細胞などでつくり、単離・精製したワクチン。投与後、抗原タンパク質が細胞外から取り込まれ、ペプチド(たんぱく質の断片)に分解されて、免疫を誘導する。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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