連載448 山田順の「週刊:未来地図」ワクチンで世界はコロナから救われるのか? ドルの帝国循環が強化される2021年(下)

日本の「立ち位置」はただ供給を受けるだけ

 では、日本はどうなるのだろうか?

 とりあえず、来年早々の接種開始を予定しているというが、政府は具体的にはなにも表明していない。

 12月2日、ワクチンの接種費用を無料とすることなどを盛り込んだ改正予防接種法が、参院本会議で可決、成立した。これにより、ワクチン接種の道が開けた。加藤勝信官房長官は、この日の記者会見で、「必要なワクチンの量の確保を厚生労働省を中心に取り組む」と述べたにとどまり、接種の開始時期については言及しなかった。

 いずれにしても、日本での実用化に向けては国内での臨床試験(治験)で、日本人への有効性や安全性を確認する必要がある。しかし、これをすっ飛ばして、スピード承認するとも言われている。

 延期された東京五輪を開催するためには、早期に承認する必要があるからだ。

 日本政府はすでに、英米の3社と供給に関する基本契約を結んでいる。ファイザーとアストラゼネカとは、それぞれ1億2000万回分。モデルナとは5000万回分である。それに対する予算、約6000億円もすでに決定している。

 しかし、政府がワクチン接種に関して、積極的かというと、これが疑わしい。菅義偉首相は、言葉も曖昧、コロナ政策も曖昧、しかも会見といえばペーパー読み上げで、スタンスというものがないからだ。

「順番が回ってきたら接種したい」と首相

 首相は、12月4日夕の記者会見で、ワクチン接種に関して問われると、こう答えた。

「治験のデータを最新の科学的知見に基づいて審査したえで、承認したものについて、全額国の負担で接種を行わせていただく。いろんな準備をしているところだ」

 完全なペーパー読み上げ、官僚答弁である。

 そして、接種の開始時期について聞かれると、「安全性、有効性をしっかり確認したうえなので、現時点で政府から予断をもってその時期を明確にすることは控えたい」と、またしても官僚答弁。さらに、自身が接種を受けるかについて聞かれると、なんと、こう言ったのである。

「最初は医療関係者とか、そうしたいろんな順番を決める。自分に順番が回ってきたら接種したい」

 順番が回ってきたとは、どういうことなのか?

 まず、率先して自分が受け、国民に範を示して啓蒙していくのが、リーダーの役目ではないのか。

 アメリカでは、すでにバイデン次期大統領が、安全性を国民に示すため、率先して接種する考えを示している。

 そのほかに、バラク・オバマ、ジョージ・W・ブッシュ、ビル・クリントンの歴代大統領経験者3人も、ワクチンの安全性を示すために公の場で接種を受ける用意があると表明している。

ワクチン開発でまたも敗戦した日本

 日本の「失われた30年」は、敗戦続きの30年だった。1985年のプラザ合意による「金融敗戦」に始まって、「半導体敗戦」「家電敗戦」「液晶敗戦」「パソコン敗戦」「デジタル敗戦」「スマホ敗戦」など、あらゆる分野で敗戦を喫した。そして、今回は、独自のワクチンをつくれず、コロナ対策も世界から大きく遅れた「コロナ敗戦」である。

 現在、国内ではいくつかのワクチン開発が続いているが、いずれも期待薄だ。なにしろ、日本政府はワクチン開発に関しては、他国に比べ微々たる予算しか組まなかった。

 そのため、もっとも期待されたバイオベンチャーのアンジェスと大阪大学が開発を進めたDNAワクチンは、まだフェイズ2の途中だ。そのほか、塩野義製薬がタンパクワクチンの開発を進めているが、フェイズ3に入るのは来春になるという。第一三共のmRNAワクチン、IDファーマのセンダイウイルスベクターワクチンも開発途上だが、これもフェイズ3は来春という。

  前回のメルマガでも述べたが、日本政府にはワクチンが戦略物質という認識がなかった。経済を重視しているくせに、それを回すためには、ワクチンが不可欠だとは考えなかった。その結果が、この惨敗である。

 これに対してアメリカ政府は、2010年に創業したバイオベンチャーに過ぎないモデルナに、「ワープ・スピード」で徹底支援を行った。

 保健福祉省の「BARDA」(生物医学先端研究開発局)経由で9億5500万ドル(約1000億円)の補助金を受け、1億回分を15億2500万ドルで買い取る契約を結んだ。

 もう、日本オリジナルのワクチンを開発しても、手遅れである。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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