連載451 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍でますます富む富裕層: どうなる?「国外移住」と「富裕層課税」(下)

中国人が中心の国外移住と資産フライト

 コロナ禍は、このように、富裕層の国外移住ブームを加速させている。国外移住は資産フライトをともなって、これまでも広範囲に行われてきたが、その中心は中国人だった。

 富裕層の流出数の国別ランキングがあり、そのトップ5は、次のようになっている。

(1)中国:年間流出数約1万5000人

(2)ロシア:年間流出数約7000人

(3)インド:年間流出数約5000人

(4)トルコ:年間流出数約4000人

(5)フランス:年間流出数約3000人

 では、人気の移住先はどこだろうか?

「AfrAsia Bank」(南アフリカの銀行)のレポートによると、(1)オーストラリア(年間で約1万2000人の富裕層が移住)(2)アメリカ(約1万人)(3)カナダ(約4000人)となっている。

ニュージーランドの人気が急上昇

 オーストラリアの人気は、GDP成長率を26年連続更新という世界最長記録を達成した「成長国」であること、「治安がいい」こと、「相続税、贈与税がゼロ」という税制度があること、「医療レベルが高い」こと、「教育レベルが高いこと」などがあげられる。

 そんなオーストラリアの人気に迫っているのが、ニュージーランドだ。とくにコロナ禍になってからは、感染拡大をほぼ抑えきったことで、人気が高まっている。ニュージーランドに最初に目をつけたのは、やはり中国人富裕層、続いて欧米富裕層だったが、日本人富裕層にも人気がある。日本人永住者数は2011年に約7500人だったが、いまは1万人を超えている。

 欧米の富裕層では、映画監督のジェームズ・キャメロン、ヘッジファンド界の大物のジュリアン・ロバートソン、ペイパルの共同創業者のピーター・ティールが、ニュージーランドの「投資家ビザ」(インベスタープラス)を収得したことで有名だ。3年間で1000万NZドル投資することで、永住権が得られる。

 じつは、日本人でこのビザ収得第1号となったのは、ベネッセコーポレーションの最高顧問である福武總一郎氏だ。彼は、移住先を比較検討し、最終的にニュージーランドを選んだという。

富裕層と金融資産は今後も増え続ける

 富裕層レポートは各種あるが、有名なのはキャップジェミニの「ワールド・ウェルス・レポート」と、ボストンコンサルティングの「グローバルウェルス・レポート」。

 この2つのレポートを見ると、コロナ禍前の2019年時点で、世界の富裕層の資産も、富裕層の数も増加を続けてきた。

 2019年、保有金融資産100万ドル(約1億円)超の富裕層は世界で2400万人以上、日本では約120万人と推計されている。

 新型コロナウイルスのパンデミックは、この富裕層の富をさらに増加させたから、今年になって富裕層ビジネスは活発化している。そこで、ボストンコンサルティングのレポートは、コロナ禍からの回復について、3つのシナリオを想定している。

(1)急速に回復(成長率は低下するが順調に回復する)

(2)緩やかに回復(成長率は落ち込み回復には時間がかかる)

(3)長期停滞(不況は深刻で長期的に低迷は続く)

 (1)(2)(3)ではかなりの差があるが、3つとも想定は楽観的で、2021年以降はいずれもプラス成長だ。(1)で4.5%、(2)では3.2%、(3)では1.4%である。したがって、富裕層ビジネス、とくに金融資産投資は強気である。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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