広がる格差で富裕層と貧困層が分断
まさか、コロナ禍がこんな結果をもたらすとは、それ以前は想像できなかった。富裕層はたしかに増え、金融資産もバブル化していた。しかし、コロナ禍がそれを加速化させてしまい、格差は開く一方となった。これは、世界中の中央銀行が行なった量的緩和のせいである。
英シンクタンクの「英財政研究所」(IFS)は「超富裕層が富をさらに増やす一方で、収入面での打撃は最貧困層20%の家庭でもっとも大きく、世帯収入中央値が15%ほど低下した」というレポートを出した。
IMFも、格差拡大を警告し、この傾向は新興国でとくに顕著だと指摘した。
アメリカの多くのメディアが危惧するのは、格差の拡大により、アメリカが別の意味で「分断」されてしまうことだ。それは、社会を動かす一部の富裕層とトップエリート階級と、低賃金で働き、常に健康リスクにさらされる大多数の労働者階級がいる社会である。ませさに、「新しい中世」の到来である。
こうなると、当然だが、富裕層から富を取り上げ、貧しい人々に配れという声が巻き起こる。いわゆる「富裕層課税」である。
ポストコロナは大増税時代になる
いまはコロナ禍から脱出することで精一杯だが、いったん収束に向かえば、その後にやってくるのは「大増税時代」ではないだろうか?
とくにアメリカでは、バイデン政権になるので、そうなるのは間違いない。もちろん、日本はこれまでもずっと増税が続いてきたが、それがいっそう強化されるだろう。
増税のメインターゲットは、間違いなく富裕層である。
バイデンは、選挙期間中にトランプが21%に引き下げた連邦法人税率を28%に引き上げて社会保障の財源に充てると言い続けてきた。また、有給の介護休暇や療養休暇の財源を確保するために、「相続税を2009年の水準に戻す」とも言ってきた。さらに、キャピタルゲインへの課税引き上げも示唆してきた。おそらく、これらは早い段階で実施されるはずだ。
このように“バイデン増税”が予想されるにもかかわらず、ウオール街はトランプよりバイデンに4倍以上の額を献金してきた。これは、減税幅を少なくさせる保険と考えるべきだろう。しかし、どの程度、バイデンがウオール街に配慮するかはわからない。
いずれにしても、バイデンは、ウオール街より民主党左派のバニー・サンダーズやエリザベス・ウォーレンなどの声に配慮しなければならない。そうなると、法人税率の引き上げ、所得税・相続税の強化は確実で、それにより、大規模なバラマキが行われるだろう。
日本も英国も富裕層課税の強化に向かう
日本ではいま、富裕層課税が真剣に検討されている。すでに、相続税は強化され、所得税の見直しも始まった。増税に次ぐ増税で、消費税はもう限界と思われるので、次は資産課税があるかどうかだ。
こうした増税路線とともに、税務当局の徴税も厳しさを増している。
国税庁は11月27日、2020年6月までの1年間(2019事務年度)に実施した所得税などの調査結果を発表したが、それによると、富裕層への追徴税額が259億円と過去最高を記録した。
このうち、CRS(共通報告基準:非居住者に係る金融口座情報を各国の税務当局間で交換するシステム)で、摘発した海外資産課税がかなりの額に上っている。
英国でも、富裕層課税が俎上に上っている。英国政府の専門家委員会は、富裕層資産に1度限り計5%の税金を課すことによって2600億ポンド(約36兆4000億円)の税収を確保できるだろうと報告書で指摘した。これは、コロナ禍で打撃を受けた財政の立て直しに、大きく寄与する可能性があるという。
富裕層への課税強化は、富裕層の国外移住と資産フライトを加速させる。日本人は、国外移住を嫌う傾向があるが、富裕層だけは違う。
現在、コロナ禍でヒトのグローバル化は滞っている。しかし、コロナ禍が収束すれば、日本でも富裕層がどっと国を出ていくかもしれない。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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