連載456 山田順の「週刊:未来地図」人事から見たバイデンの対中政策はトランプの覇権戦争を継承か?(完)

当に情けない日本の「米中二股外交」

 このように見てくれば、米中覇権戦争は、今後も続いていくのは間違いない。覇権戦争というのは、どちらかが降りるまで続く。ただ、トランプとバイデンでは、その戦い方が違うというだけである。

 すでに、連邦議会には「現在の危機に関する委員会:中国」(Committee on the Present Danger:China)が設立されており、中国の覇権阻止は民主、共和の党派を超えた国家意思である。

 中国はいまこのときも、軍備を増強している。バイデン 政権としては、決定的な「米中軍事対決」を回避しながら、中国を封じ込めなければならない。

 もちろん、日本はアメリカ側に立ち、中国との経済関係を無視してでも中国包囲網に参加しなければならない。

 それなのに、管政権は中国との関係を重視し、「米中二股外交」を行っている。安全保障はアメリカに依存し、経済は中国に依存しようというのだ。これは、あまりにも情けないことだ。

 この状態で、バイデンの対中政策はどうなるか?などと言っているのだから、ナイーブにも程がある。

「大人の対応」とはイコール「弱腰」のこと

 11月24日、中国の王穀外相が来日し、茂木敏充外相と会談後、記者会見を行った。その席で、王穀は尖閣諸島の領有権は中国にあることを主張し、周辺海域に日本の漁船が入ることにクレームをつけた。

 これに対して、茂木は一言も反論せず、最後に「謝々」と言ったので、国民の間から怒りの声が湧き上がった。

 茂木と外務省は、それに対し「大人の対応」と言ったが、そんなバカな話はない。公の席で反論しなかったということは、相手の主張を認めたことになる。「大人の対応」などいう外交は、この世な中にはない。つまり、外務省が言う「大人の対応」というのは、「弱腰」ということだ。

 驚いたことに、先日合意された「RCEP」(アールセップ:東アジア地域包括的経済連携:Regional Comprehensive Economic Partnership)でも、日本の対中外交のお人好しぶりは目に余った。

 なんと、これをNHKや朝日をはじめとするマスメディアが、菅外交の成果として大報道をしたのだ。しかし、RCEPでトクをするのは、主に中国であり、日本はほとんどトクをしない。実際、インドは中国が参加する経済連携などありえないと離脱してしまった。

 なぜ、中国がトクをできるのか? それは、日本やオーストラリア、ASEAN10カ国などが参加していることで、中国も自由貿易を促進しているとカモフラージュできるからだ。しかも、これは、安倍政権が掲げ、アメリカも賛同している「自由で開かれたインド太平洋構想」(中国包囲網)に反する。

 さらに驚いたのは、RCEP後、中国が今度は「TPP11」(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)に参加を表明したら、これを歓迎すると言い出したことだ。「TPP11」は経済・貿易協定だが、その本質は環太平洋諸国による対中包囲網である。トランプはこれが理解できずに離脱してしまったが、その本質は変わらない。

 以上、ここで今回は終わるが、コロナ禍も拡大する一方だし、本当に、日本の先行きが危ぶまれる。

(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のaまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

>>> 最新のニュース一覧はこちら <<<

タグ :