新型コロナの感染者数が、連日、記録を更新するなか、政府は「グリーン成長戦略」という政策を策定し、クリスマス当日に発表した。これは、今後の日本経済の行く末を決め、私たちの暮らしに直結する大問題だ。(編集部注:このコラムの初出は12月29日)
しかし、大きく取り上げたメディアはない。目の前のコロナ禍報道に目を奪われているからだ。
いまや地球温暖化に対する日本の取り組みは、欧米に比べると大幅に遅れている。それを、政府は一気に取り戻そうというのだ。
しかし、そんなことをして大丈夫なのだろうか? いまの日本の低迷する経済状況のなかで、「炭素税」を導入し、クルマをぜんぶ「EV」に替えてまで、「カーボンニュートラル」を達成することが必要なのだろうか?
「2050年カーボンニュートラル」を正式表明
12月25日のクリスマス。日本の新型コロナウイルスの感染者数が記録を更新している最中、経済産業省のHPに、政府の新しい政策が発表された。
HPには、次のような一文が掲載されていた。
《経済産業省は、関係省庁と連携し、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しました。この戦略は、菅政権が掲げる「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、「経済と環境の好循環」につなげるための産業政策です》
→経済産業省HP
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012.html
この発表に合わせて、事前にメディアに資料が配られたが、その概要は次のとおり。
まず、大目標として2050年に温暖化効果ガスを実質ゼロにすること(=2050年カーボンニュートラル)を実現し、脱炭素社会づくりを強力に進めていく。そのために、あらゆる政策手段を使う。
再生可能エネルギーや原子力、水素の普及拡大(=グリーン化)を進め、ガソリン車から「EV」(電気自動車)への大転換を図る。そのために、「カーボンプライシング」(CP)などさまざまな手法を導入する。
つまり、化石燃料による発電とガソリン車をやめ、欧米のように、CPによる「炭素税」を導入し、「排出枠取引」も積極的に進めていくというのだ。
ちなみに、CPはこの2つの手段により、排出削減や低炭素技術への投資を促進するというもので、すでに欧州では炭素税が導入されている。
CPでは、二酸化炭素の排出量が多ければ多いほど課税され、取引枠を買わねばならなくなる。となれば、企業(個人も)は、脱炭素への投資をしなければならなくなる。
スピード感全開、わずか2カ月で策定
自民党政権は、経済界によって支えられている。その経済界の重鎮と自民党議員の多くにとって、今回の「グリーン成長戦略」表明は、“寝耳に水”だった。私のようなメディアの人間にとっても、かなり唐突だった。
「なんで、こんな時期に駆け込みのように決めるのか」「あまりに早急過ぎないか」という声が多く聞かれた。
菅義偉首相は、9月の就任後の国連スピーチ(ビデオ)で、柄にもなく「SDGs」という言葉を使い、環境問題に言及した。そして、10月の所信表明では、「2050年カーボンフリー」を正式に表明していた。
だから、いずれ政策策定がなされるのは自明だったが、それにしても所信表明からわずか2カ月だから、このような声が出て当然だった。
コロナ対策では「スピード感ゼロ」なのに、なぜ、環境対策では「スピード感全開」なのか? 官房長官時代、環境問題にはほとんど興味を示さなかったのに、なぜ、態度をコロッと変えたのか?
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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