まだはっきりと見えてこない「対台湾政策」
そこで、いま、日本でもっとも注目されているのが、新しくUSTR(アメリカ通商代表部)代表に就任するキャサリン・タイだ。彼女もまた、2011年から2014年まで、オバマ政権下でUSTR の中国部門の責任者を務めた。生粋のワシントンDC育ちで、イエール、ハーバードロースクール出身の秀才だが、台湾系であることが重要だ。
中国問題というのは、ある意味で「台湾防衛」問題だからだ。中国との通商交渉に台湾系アメリカ人が就くことは、中国にとっては嫌でたまらないだろう。
いまのところ、対中政策と同じく、バイデンの台湾政策もはっきりしていない。昨年12月、「WSJ」(ウオールストリートジャーナル紙)は、エディトリアルで、もしバイデンがアジアの同盟国を安心させようというのなら、台湾防衛の目標をはっきり打ち出すべきだと主張した。
この主張はもっともであり、日本にとっても重要だ。なぜなら、台湾の最大の関心事は、中国の人民解放軍が台湾海峡を越えて軍事行動を仕掛けてきた場合、アメリカがどう出るかだからだ。トランプは中国を牽制するため、台湾の蔡英文政権を強力にサポートしてきた。
トランプは、「台湾関係法」に基づいて、台湾への武器輸出を増大させ、主要閣僚をはじめて台湾に派遣した。また、総統就任直後の蔡英文(ツァイ・インウェン)と電話会談を行った。いずれも中国は激怒し、「戦狼外交」を露わにして非難した。
突如、公表された「台湾防衛」の秘密文書
バイデン政権が、こうしたトランプの対中政策を引き継ぐと言われる決め手になる文書が、この1月12日に公表された。これは、アメリカ政府がインド太平洋戦略などについて2018年に承認した内部文書で、本来は2043年まで非公表の扱いだった。
それが、一部を編集した上でホワイトハウスが機密指定を解除したのである。つまり、トランプの置き土産と言っていいもので、ここには、「台湾防衛」が明記されていた。
文書では、中国がインド太平洋地域におけるアメリカの同盟関係などの解消を狙っていると指摘し、台湾に関しては「中国は統一を強要するため、より強い手段をとるだろう」という見解を示している。
そのためアメリカは、「中国がアメリカやアメリカの同盟国、友好国に対して武力行使することを抑止する」ために、(1)紛争時、中国に第1列島線内の制空・制海権を与えない、(2)台湾を含めた第1列島線に位置する国や地域を防衛する、(3)第1列島線外でのすべての領域で支配力を維持する、としている。
第1列島線とは、九州・沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ線で、台湾も沖縄もこの内側、中国寄りに位置する。
この文書公開に、中国外務省は激怒、“ミスター戦狼”趙立堅副報道局長は、13日の記者会見で「アメリカこそ地域の平和と安定の破壊者であることを暴露してしまった」と主張した。
はたして、バイデン政権は、こうしたトランプ政権の政策を引き継ぐだろうか?
機密指定文書ということは、これは、アメリカと同盟国(もちろん、日本も含む)の間には、“暗黙の了解”(密約)があるということだ。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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