今年、英海軍の空母が日本にやって来る
EUを脱退(ブリグジット)したが、英国は対中政策を大転換させ、今年はなんと、英海軍の空母「クイーン・エリザベス」(QE)を含む空母打撃群を極東に派遣すると、ボリス・ジョンソン首相が表明した。極東というのは、沖縄県など南西諸島周辺を含む西太平洋海域である。
昨年12月5日、このことが伝えられると、日本の防衛関係者は色めきたった。米海軍に加えて英海軍も、中国海軍を牽制してくれるからだ。
空母QEは、2017年12月7日に就役した最新空母で、満載排水量6万7699トン。艦首のスキージャンプ傾斜を使用して艦載戦闘機のF-35Bを発艦させるSTOVL空母。F-35Bを30機搭載する能力を備えている。このQEとともに水上戦闘艦、潜水艦、補給艦、タンカーなどもやって来る。そして、海上自衛隊と合同訓練も行う予定なので、さながら「日英同盟」の復活と言える。
英海軍は、朝鮮戦争の国連決議に基づき定められた国連軍地位協定により横須賀(神奈川)、佐世保(長崎)、ホワイトビーチ(沖縄)などの在日米軍施設・区域で補給を受けられることになっている。
ボリス・ジョンソンは、空母QE打撃群が南シナ海で「航行の自由作戦」をすることも表明している。オーストラリア海軍とも連携するとしている。もちろん、中国の拡張政策と悪化する香港情勢を牽制するためである。
英国としては、バイデンが新しい外交・安全保障政策を打ち出す前に、先手を打ったというかたちだ。
しかし、菅政権は、ここまでなに一つしていない。
「ファイブ・アイズ」に参加できるという『?』
米英などアングロサクソン5カ国によるインテリジェンス協力の枠組みに、「ファイブ・アイズ」(Five Eyes)がある。
もともとは、第二次世界大戦中に、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド5カ国が通信傍受で協力したことで始まったものだが、近年は、ネットを介した通信傍受、デジタルでの情報共有の比重が高まっている。と同時に、冷戦時代はソ連、いまは中国に対する情報戦の武器として機能している。
このファイブ・アイズに、日本も参加すべき、いや参加させてもらうべきという意見がある。一昨年の半ばごろから言われるようになったことで、ドイツ、フランスも含めて、情報共有による対中包囲網をつくって連携しようというのだ。河野太郎・防衛相も昨年夏、新聞取材に対して、参加に意欲を示している。
しかし、日本は、世界でもインテリジェンス能力が弱い国で、専門の対外情報機関もない。いくら乗り気になっても、そんな「情報弱国」にアグロサクソン同盟が参加を認めるわけがない。
しかも、ここまで述べてきたように、菅政権は対中政策があいまいで、信頼が置けない。これから「デジタル庁」をつくるという、とんでもないIT後進国だ。
外交文書が明かす日本の対中政策の間違い
日本の対中政策は、歴史的に見てことごとく失敗している。昨年12月23日に、公開された外交文書は衝撃的だった。外務省は、1989年の天安門事件に関して、民主化を要求した学生や市民を殺戮した共産党政権を非難せず、理解を示す方針を貫いたのである。西側諸国が、経済制裁、断交、非難を決めたにもかかわらず、日本だけが容認し、巨額のODA援助を続けた。
このことが、公開された文書で裏付けられた。
文書が示す当時の日本の対中政策は、「鄧小平の人権よりも国権という宣言を支持する」 「中国当局の自国民多数の弾圧と殺害も中国内部の問題とみて
非難しない」「中国の国際的孤立の防止に努める」というものだった。
そのため、1989年7月、つまり事件から1カ月後のアルシュ・サミットでは、欧米諸国がこぞって中国政府を激しく糾弾するなか、日本だけが制裁に反対している。
なぜ、日本はここまで中国に対して融和的、従属的なのか? 本当に理解に苦しむ。いずれにしても、天安門事件以後の中国の大発展を促進させたのは、日本である。もちろん、カネに目が眩んだ欧米諸国もそれに追随した。
考えてみれば、今日の中国の強権政権をつくった最大の戦犯は、アメリカである。アメリカは1世紀半にわたって対中政策を間違え続けてきている。
第二次大戦後、国民党政府への援助を打ち切り、毛沢東の共産党による統一を許したのも、その中国をニクソン訪中で国連に加盟させ、改革開放に走らせたのもアメリカである。
はたしてバイデン政権はどうするのだろうか?
最後に懸念されるのが、バイデンの息子ハンターが中国ビジネスでマネロンを行ったという疑惑だ。
いずれにせよ、しばらくの間様子を見るほかないが、バイデン政権がどう出ようと、日本は日本独自の対中政策を進めるほかない。そうしないと、日本の安全、平和は脅かされ続ける。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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