連載471 山田順の「週刊:未来地図」なぜ「医療崩壊」? そしてついに「命の選別」に。 医療者も患者も見殺しの絶望ニッポン(上)

 先週(この記事の初出は1月12日)、政府はやっと東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県に緊急事態宣言を発令しました。昨年春以来、2度目ですが、今回は飲食店への時短要請と、まったくの“ゆるゆる”の措置です。これでは、感染拡大は止まらないでしょう。

 すでに、コロナと戦う最前線の医療現場からは、悲鳴が上がっています。患者数の増加に医療が追いつかず、「医療崩壊」が起こっているからです。医療崩壊が起こると、次の大きな問題は「命の選別」(トリアージ)です。

 誰を助けて誰を助けないかを決めなければなりません。しかし、日本にはそのガイドランがなく、現政府には、その問題意識すらないのです。このままでは、医療者も患者も見殺しです。

「医療崩壊」は「医療の倫理」を崩壊させる

 政府は首都圏1都3県への「緊急事態宣言」の発出に続き、大阪府中心の近畿圏や愛知県中心の名古屋圏からの緊急事態宣言の要請に応える模様だ。まだ、状況を見るなどと言っているが、今週中にそうせざるをえないだろう。

 それにしても、感染拡大は本当に止まらない。もはや、感染状況は欧米諸国レベルに近づき、アジアではNo.1の感染国になろうとしている。

 それで、緊急事態宣言となったわけだが、今回の緊急事態宣言はほぼ無意味だ。なぜなら、日本の緊急事態宣言は、単なる飲食店への時短要請で、欧米のようなロックダウンではない「なんちゃってロックダウン」だからだ。 

 それにしても、この1年弱、日本政府と各自治体はなにをしてきたのだろうか? ひと言でいえば「様子見」を決め込んできただけで、まったくの無策だった。会議を開いては、状況確認をし、自粛要請をしただけである。

 そのため、感染はいまや「オーバーシュート」といった様相を呈し、患者受け入れ協力病院、感染症指定病院には患者が溢れている。つまり、「医療崩壊」が起こっている。私の知人の都内の医者も「これ以上患者が増えたら、お手上げです。医療崩壊はもちろん、医療の倫理も崩壊してしまいます」と嘆く。

トリアージ(命の選別)を医療者に丸投げ

 「医療の倫理」とは大げさだが、実際、助けられる人間も助けられないとなれば、たしかに医療の倫理は崩壊する。どんな患者にも全力で治療に当たるのが、医療の倫理、医者の務めとされるからだ。

 つまり、もう一部の病院では医者が患者を選ばなければならない状況になっている。知人の医者は、こう続ける。

 「本当に、この状況がいちばんつらい。私たちにトリアージ(命の選別)をする権限は与えられていません。それなのに、そうせざるをえないからです」

 現在、毎日のように重症患者が増えている。重症患者には人工呼吸器やECMOなどの緊急医療が必要だ。しかし、患者があふれれば、それらの医療機器も人手も足りなくなり、誰を治療して誰を治療しないかを決めなければならない。

 人工呼吸器をつける場合、たとえば重症患者が3人で空いている人工呼吸器が1台とすれば、2人は死を覚悟してもらわなければならない。

 ここで、菅義偉首相のように「全力を挙げて」と何度も記者会見で繰り返しても、そんなきれいごとでは事は済まない。

 トリアージを「命の選別」と言うならば、その判断を医者に押しつけていいのだろうか。ヒトを生かすか死なすかの選別は、本来、「神の領域」に属するものである。それを、現場の医療者(医者や看護師)に丸投げしているのが、じつは、日本の医療である。そうして誰も、その責任を取らない。

 こんなことを続けていては、医療崩壊が進むのと並行して医療者の精神が破壊されてしまう。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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