独自の「アップル・カー」をつくるのか?
今回のアップルの自動車産業への本格産業に関して、メディアや専門家はいろいろな見解を伝えている。「CNBC」ではアップル専門のアナリストであるジェネ・マンスターに、こう言わせた。
「アップルの戦略としては、アップルブランドの自動車を製造するか、ソフトウェアをつくってメーカーに販売するかの2択しか考えられない」
たしかに、この2択以外の道はないと思える。とすると、アップルブランドの自動運転EV、つまり「アップル・カー」を完全に自前でつくるとは考えにくいので、後者の自動運転ソフトをつくって販売する道が有力だ。つまり、アップルはアップル・カーそのものをつくる製造業に進出するわけではなく、ビッグテックとして自動車をソフトでコントロールして、アップル・カーを販売するということだ。
「ロイター」の報道以後に出た情報をまとめると、アップルの「プロジェクト・タイタン」の要となるのは、新たなバッテリーの開発・設計で、これにより、現在のEVの最大の課題とされる走行距離を延ばすことが可能だという。
このアップルの新バッテリーは、これまでのどのバッテリーより革新的なものだという。
クルマではなくスマホと同じ端末
では、ここからはアップルが「アップル・カー」をつくる時代的な意味を考えてみよう。
いまや、全世界の自動車産業、IT産業が、まったく新しい次世代カーをつくることを目指している。グーグルやテスラはもとより、中国のIT企業も自動車産業への進出を表明している。
たとえば、全世界で5億人以上が利用する中国の配車アプリ最大手「滴滴出行」(ディディ)は、配車サービス専用のEV開発を2020年12月に発表した。このEVは 2025年を目標として、そこまでに100万台の利用を目指す方針である。また、同じく中国のグーグルとされるネット検索最大手の「百度」(バイドゥ)も、自動運転EVの製造販売に乗り出すと表明している。
このように、いまのトレンドは、IT企業の自動車産業参入である。この流れを単純に考えると、異業種参入となるが、実際はまったく違う。IT産業は、大きなパラダイムシフトを起こそうとしている、あるいはそうせざるを得ないのだ。
日本では、EVや自動運転などにより次世代自動車の開発が進んでいるのだと、単純に考える人が多い。じつは私もその一人で、先日まではパラダイムシフトにまで考えが及ばなかった。
しかし、今後、グーグルやアップルがつくる自動運転EVは、EVにITの機能を加えたクルマではない。まず先にITのサービスがあり、そのサービスの延長としてクルマが存在する。こういう見方が正しい。
テスラが開発したEVは、じつはスマホと同じで、ソフトをアップデートすることによって、随時、新機能を加えられるようになっている。これは、クルマよりもコンピュータ端末に近い。となると、既存の自動車とは根本的に設計思想が異なる。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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