クルマは最後に残った垂直統合型産業
自動運転はAIによって実現できる。自動車の基幹技術は、ガソリン車の場合は内燃機関だったが、EVになるとバッテリーとモーターというコモディティ部品を組み合わせれば実現できる。
すでに、こうしたコモディティ部品は大量生産されている。よって、これらを仕入れて、AIによってクルマを運転させれば、自動運転EVは実現する。
以上を従来のガソリン車をつくる自動車産業と比べてみると、部品数が少ないために製造プロセスも簡素化でき、コストも安くてすむことがわかる。内燃機関の製造ではこうはいかない。その技術は緻密だから、自動車産業は多くの部品メーカーを抱える垂直統合型産業だった。
しかし、自動運転EVは、スマホ製造と同じように、水平分業ですんでしまう。
現代のものづくりは、IT社会になってから、すべてこの水平分業化で進んできた。「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)で、すべてのものがネットにつながる世界では、これがスタンダード。アップルは製造業ではない。しかし、半導体メーカーやファウンドリーを使ってスマホをつくっていて、その機能のすべてを握っている。
つまり、簡単に言うと、自動車産業は最後に残った垂直統合型産業で、AIとIoTの世界ではIT産業側の下請けにならざるをえないのだ。
自動運転車は「所有」せず「利用」するだけ
もう一つ、ここで自動運転に関して考えると、これが実現してしまうと、自動車に関する人々の考え方が大きく変わってしまう。いま、言われているのは、人々は自動車を所有しなくなるということだ。
その理由は、必要な日に必要な時間だけ自動運転のクルマを利用すれば、ほんとんどの人のニーズは満たせるからだ。いわゆる「シェアリングエコノミー」の世界になるということだ。このような世界では、自動運転EVの予約や管理といった業務を行うITインフラが必須となる。これを実現できる能力を持っているのは、グーグルやアップル、中国のバイドゥいったビッグテックだけである。
コンサルティング大手のアクセンチュアが、1月22日に発表したクルマに関する意識調査(Mobility Services:The Customer Perspective、モビリティ・サービス:顧客の視点)によると、将来的に多くのドライバーが自動車の所有をやめる代わりに、自動運転バスや自動運転タクシーなどの利用を検討していることが明らかになった。
アメリカ、中国、欧州の消費者7000人(約85%が自動車を所有)を調査したところ、将来的にカーシェアリングや自動運転タクシーなどの普及が加速し、モビリティ・サービス関連の収益は2030年までに約1兆2000億ユーロに達するという。
そして、特筆すべきは、自動車オーナーの約96%が「今後も自動車を所有する」と回答した一方で、自動運転が可能になった場合は、約半数の48%が「自動車を手放すことを検討する」と回答したことだ。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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