そもそも「ワクチンパスポート」とはなにか?
「ワクチンパスポート」という考え方は、コロナ禍が始まった当初からあった。いずれ、ワクチンが開発・実用化されたら、その接種を受けたどうかが大きな問題になるからだ。
つまり、「ワクチンパスポート」というのは、ワクチンの接種証明書のことで、これは、PCR検査結果の陰性証明よりもグレードの高い証明書だ。PCRの陰性証明は、検査時点で新型コロナウイルスに感染していないことの証明になるが、それ以外ではない。しかし、ワクチンパスポートでは、ワクチンを打ったことでコロナに対する免疫、抗体を獲得したことの証明になるからだ。
抗体検査で陽性になると、抗体を持っていることになるが、ワクチンパスポートでもそれと同じことことになる。
つまり、抗体があればコロナには感染していないわけだし、また感染リスクもほぼない。要するに、マスク着用、3密回避などの生活から解放されるのだ。
「ワクチンパスポート」は、2020年2月、新型コロナウイルスのパンデミックが始まり、世界各国でロックダウンが講じられた際、出口戦略のひとつとして提案された。当時は、ワクチンの研究開発が始まったばかりだったので、「ワクチンパスポート」とは呼ばれず、「免疫獲得証明書」といった概念だった。
コロナに感染して回復すれば抗体ができ、免疫が獲得できる。そうした免疫獲得者から、優先的に社会経済活動に復帰させていこうと提唱され、そのためになんらかの証明書が必要というアイデアだった。
政府当局は、免疫を獲得した人々に対して、証明書を発行する。そして、その証明書によって、行動制限などを解除し、職場復帰や社会的交流、旅行を許可するというのだ。
「義務」か「自由」か? 証明書は必要か?
ワクチン接種を受け、その証明としての「ワクチンパスポート」があれば、コロナ禍の不自由な生活から解放される。居酒屋だろうとレストランだろうと自由に行ける。もちろん、電車にも乗れる。テレワークをやめて会社に行ける。イベントにもパーティにも行ける。元の生活に戻れるのだ。
つまり、ワクチンは社会生活を正常化させるための手段だというのは事実であり、安全性への配慮はもちろんだが、それ以上に接種をより早く、広範に行なわなければならない。
したがって、ワクチン接種に関しては、それを強制すべきだという意見もある。たとえば、アメリカでは、多くの州で医療従事者は、百日咳、水痘、麻疹(はしか)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、風疹などの予防接種を義務づけられている。さらに米軍では、破傷風、ジフテリア、A型肝炎、ポリオなどの予防接種が義務づけられている。
日本でも、ワクチン接種がある疾病を「A類疾病」と「B型疾病」の2つに分け、「A類疾病」に当たるジフテリア、百日咳、ポリオなどは、集団接種が「努力義務」とされている。ちなみに、B類疾病は主に個人の予防を目的とするもので、代表的なのがインフルエンザである。
それでは、新型コロナのワクチン接種はどうしたらいいのか?義務化するのか? それとも個人の自由とするのか? そして、「ワクチンパスポート」は、これを制度化すべきなのか? しないほうがいいのか?
これまで、さまざまに議論されてきた。
まず、接種に関しては、世界の主要国は、「自由接種」を選択している。人権にかかわるからだ。ただし、「ワクチンパスポート」に関しては、制度化する流れになっている。
アメリカの主要メディアのなかには、「ワクチンパスポートは保有者と未保有者を社会的に大きく差別するものになると、懸念を表明しているところも多い。「倫理的に言って認められない」と主張するところもある。
しかし、政治的、現実的な解決策としては、これ以外に選択肢はないともしている。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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