連載488 山田順の「週刊:未来地図」このままでは世界の孤児に!  なぜか進まない「ワクチンパスポート」の導入(下)

アジアでも進む「ワクチンパスポート」導入

 それでは、アジアはどうだろうか?

 インドは、1月16日からワクチン接種を始めた。まずは、医療従事者と50歳以上の国民が対象だが、8月までに3億人の接種を目指している。

 そんななか、インド政府はワクチン接種に関してのデジタル・プラットフォームの開発が進め、「ワクチンパスポート」の発行を始めている。

 インドは個人ID(通称:アダール、インド版マイナンバーカード)が人口13億5000万人の大半に普及済みなので、パスポート はこのアダールにヒモ付けられる。このデジタル証明書をスマホのアプリ上で提示することで、自由な社会生活が可能になることを想定している。

 韓国は、日本と同じようにワクチン接種が遅れたが、デジタル管理システムはすでに構築を終えている。このシステムで、接種の予約を受け付け、接種証明書も発給することになっている。韓国政府は国民の接種関連費用のすべてを支援するうえ、これを国内に居住する外国人に対しても行うと表明している。

 先のことはわからないが、韓国政府は11月までに集団免疫を獲得するとしている。となると、これは計算すると日本より早い。

 フィリピンでは、1月20日に、上院にワクチンを接種したことを示す公的証明書を導入する法案が提出された。アジアではインドネシアとともに感染者数が多いフィリピンの動きは早かった。

 しかし、ワクチン接種はまだ見通しが立たない。接種自体は中国から提供されたシノバックのワクチンから始まったが、ファイザーなどの欧米ワクチンの接種は、供給次第で3月からとされている。

 タイも「ワクチンパスポート 」に関しては、いち早く導入を表明した。タイの観光・スポーツ省は、2月1日、外国人観光客をタイに呼び戻すために、ワクチンを接種した外国人に対して、14日間の隔離検疫なしでの入国を許可することを表明した。ただし、実施は4月からという。

 観光が経済の柱のひとつであるタイだけに、「ワクチンパスポート」は欠かせないが、まだ運用に関しては決まっていない。

接種の有無をどう扱うか決められない政府

 このように、世界中で「ワクチンパスポート」の導入が進んでいるが、日本はまたしてもこの動きに遅れようとしている。心配なのは、日本の悪い例として、検討や議論はするが、実際にはなにも実行されないということだ。今回もそうなろうとしている。

 2月5日、衆議院予算員会で、ワクチン接種に関しての質疑が行なわれた。これは、3日に成立した新型コロナ対応の改正特別措置法で、感染者や医療従事者の差別防止に向け、国や自治体が啓発活動を行う「責務」が規定されたことによるものだった。

 質問に立った立憲民主党の岡本充議員は、ワクチン接種の有無による差別を明確に禁じる規定はないことを政府に問いただした。また、ワクチン接種が「Go Toトラベル」などの利用の条件になるかどうかも質問した。

 これに対して、田村憲久厚生労働相は、ワクチン接種の有無が、雇用や解雇の条件にすることは認められないと答弁した。「Go Toトラベル」に関しては、赤羽一嘉国土交通相が「想定していない」と答えた。

 要するに、ワクチン接種による「ワクチンパスポート」に関して、政府の姿勢はまとまっていないのである。河野太郎行政改革相は、海外渡航時に訪問先で接種証明が求められる可能性があることを指摘したが、その一方で「国内で国や行政が接種証明を求めることはいまのところ、想定しづらい」と答えた。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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