連載496 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍で改めて思う「この国のかたち」 すべてに勝る天皇の「お言葉」(中2)
「コロナ特措法」で自己責任の世界に
これもエスニック・ジョークになるが、「通行止め」の標識を道に出せば、日本人はそこを通らない。しかし、海外では標識はなんか気にせず、そこが通れるとわかれば通ってしまう。したがって、標識を守らなかったら罰を科すことを決め、それを実行することになる。
ニューヨークでは、赤信号(ストップシグナル)を守っている人間を見るのは稀だ。誰もが勝手に赤信号だろうと道路を横断する。日本人は「赤信号、みんなで渡れば怖くない」で、周囲が渡っていないと渡らない。
アメリカでつくづく思うのは、ルールがあっても行動の判断はあくまで自分、すべてが“自己責任”の世界ということだ。前述したマスク着用も、この自己責任の世界の現れと言えるだろう。
2月13日、新型コロナウイルス対策のための「コロナ特措法」がついに施行された。これにより、要請に応じない場合は「過料」が科せられることになり、日本も自己責任の世界の仲間入りしてしまった。
しかし、日本には「コロナ特措法」などという明文化したルールは必要がないというのが、私の考えだ。日本は、天皇を頂点とする国であり、ここを本当に支配・統治しているのは「天皇が国民を治める」という慣習法だからである。
年を取るとともに天皇・皇后の姿に涙が
慣習法と言うと違和感があるが、日本人が最終的に従うのは法ではない。自治体の首長や総理大臣という法で定められた政治リーダーの言葉でもない。天皇の「お言葉」のみが、日本人を動かすことができるのだ。
若いときは、そんな実感はなかったが、年を取るにつれ、私は、これこそがこの国の本質だと思うようになった。
若いときは、どちらかというと皇室を冷ややかに見ていた。日本国民はみな皇室に敬意を抱いていると言われると、違和感を覚えた。天皇(現上皇)や美智子皇后(現上皇后)の言動は、形式的なものとしか思えなかった。
しかし、たとえば、両陛下が被災地を訪れて被災者に声をかけ、被災者がそれに涙で応えているのを見るにつけ、次第にもらい泣きをするようになってきた自分に気がついた。
とくに、東日本大震災以後は、被災地を訪れ、被災者に跪いて声をかける天皇・皇后両陛下の姿に、涙が自然とあふれるようになった。
なぜ東京を脱出し、その後すぐ戻ったのか?
もう何度か記事や自著に書いてきたが、私はあの東日本大震災のとき、首都圏を脱出して、家内の実家がある宮崎に逃げた。
知人の物理学者が「メルトダウンをしているのは間違いない。政府はそれを隠している、早く逃げたほうがいい」と言うので、それに従った。
3月13日、地震から2日後、福島原発3号機が爆発する映像がテレビで流れるのを見て、私は家内とすぐに羽田空港に向かった。いまも、あのときの羽田空港のざわざわした様子を思い出す。私たち夫婦と同じように、東京を脱出しようとする人々で、空港はごったがえしていた。そして、思った。「このあと、東京に戻ってこられるのだろうか?」と。
しかし、私たち夫婦は3月21日の最終便で宮崎から羽田に戻った。なぜ、私は戻ろうと決めたのか? それは、天皇陛下のテレビを通してのメッセージを見たからだ。メディアで仕事をしているため、様々な情報が私には入ってくるが、そのなかでもっとも注目したのは天皇・皇后両陛下が東京を脱出したかどうかだった。
私は、当然、両陛下は私たちと同じように東京を脱出されたと思っていたが、そうではなかった。皇居にとどまったのだ。
それがはっきりしたのが、16日のテレビ出演だった。このとき、天皇は淡々と国民に向かって落ち着くように呼びかけた。私はこの映像を見た後に、両陛下が東京脱出を進言されたにもかかわらず、それを断ったことを知人の記者から聞かされた。
天皇陛下がテレビで「お言葉」を発せられた翌日、自衛隊のヘリコプターによる原子炉建屋への水かけ作戦が始まった。同日、米国大使館は在日米国人に福島原発から50マイル圏内からの退去を勧告し、第7艦隊の空母「ドナルドレーガン」は三陸沖に到達していた。
じつは、このとき、日本は最大の危機に直面していたのだ。しかし、メディアはそれをなに一つ伝えなかった。そして、天皇は、なにがこの国に起ころうと、それを受け止める道を選んだのだった。
ならば、戻るほかないと、私は思ったのである。
(つづく)
この続きは3月22日(月)発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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