連載497 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍で改めて思う「この国のかたち」 すべてに勝る天皇の「お言葉」(下)

連載497 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍で改めて思う「この国のかたち」 すべてに勝る天皇の「お言葉」(下)

アメリカの「分断」はどうすれば防げるか? 

 ここまで書いてきて、これ以上、どうやって説明したらいいかよくわかないのだが、日本とは、ともかく「天皇によってまとまる国」である。

 先日のアメリカ大統領選挙では、「分断」が大きな政治課題になった。トランプによって、アメリカの分断が進んだからだ。では、アメリカの分断はなによって防げるだろうか?

 それは、それは建国の理念を全国民が共有することだ。独立宣言にある「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」という言葉を信じ、それを共有することだ。

 そうして、アメリカが「自由、人権、民主主義」の国であることを続けることだ。

 しかし、日本にはこのような文言はない。憲法はあるが、それをつくったのはアメリカである。また、そこには「国民主権」と「民主主義」が述べられているが、それ以上に日本人が信じているのは、天皇の下に続いてきたこの国の歴史、伝統、慣習である。

 つまり、日本を分断させずにまとめるのは、天皇そのものにほかならない。独立宣言や憲法などの成文法でもなければ、民主主義のようなシステムでもない。

 この国の歴史を振り返れば、「国難」というときには、必ず天皇が登場し、その「お言葉」(昔なら「勅命」)によって、国民がまとまってきたことがわかる。

 現代史からその例を挙げれば、第二次大戦の終戦がすぐに思い浮かぶ。

日本、イタリア、ドイツの終戦の違い

 ここで、日独伊の枢軸3国の終戦を比べてみたい。終戦後3国とも民主化されたが、終戦にいたるプロセスはまったく違い、それぞれの国柄、国のかたちを表している。

 まずは、イタリアだが、1943年の夏、連合軍がシチリアを占領して本土への空襲が激しくなると、すぐにムッソリーニは失脚し、後継のバドリオ政権が誕生した。この新政権は、即座に無条件降伏に基づく休戦協定を連合軍と結んだ。

 しかし、その後も、ムッソリーニはドイツ軍の支援を得て戦いを続け、バドリオ政権がドイツに宣戦布告をしたため、国家は分断されてしまったのである。

 この分断を経て、終戦後、国民投票が行われ、イタリア王室は廃止された。

 ドイツは、独裁者ヒットラーが最後まで降伏を拒否して、戦い続けた。暗殺計画が何度も試みられたが結局失敗し、ベルリン陥落直前でのヒットラーの自殺で、ナチス帝国は崩壊した。

そのため、無政府状態になったドイツは、各部隊が個別に連合軍に降伏した。

 その結果、ソ連軍が東独を占拠してしまい、東西分裂を招いてしまったのである。

 では、日本はどうだったか?

 3国のなかでは、最後まで徹底抗戦を続けたが、原爆投下後は、昭和天皇の「玉音放送」の肉声一つで完全に降伏した。800万人の軍隊が、わずか1日で降伏を受け入れ、天皇の「お言葉」ひとつで矛を収めたのである。

 こんなことは世界史上ありえなかったことだから、連合軍はにわかに信じなかった。マッカーサーは、必ず抵抗があると覚悟して厚木基地に降り立ったという。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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