弾劾裁判でのマコーネルのスピーチは秀逸
2月9日から5日間にわたって行われたトランプ弾劾裁判は、結局、無罪判決で終わった。これを受けてトランプは政治の現場に復帰したわけだが、多くの米メディアは、「復活は容易ではない」「トランプへの熱狂はこれで終わるだろう」と予測した。「共和党はトランプ離れをするほかに道はない」とした専門家もいた。
しかし、現状を見ると、そうはなっていない。
ではなぜ、米メディアの見立ては違ったのか? それは、弾劾裁判を締めくくったマコーネル演説が素晴らしかったからだ。私も、このスピーチに感動し、共和党はトランプ離れをすると思った。
マコーネルは、こう述べた。「元職(つまりトランプのこと)は弾劾の対象とはならない」
そして「ここがすごく大切な点だ」と言って、こう続けたのである。「彼ら(元職)は普通の市民として裁かれ得る。別の言い方をしてみよう。トランプは彼が大統領として行ったあらゆる行為について一般の市民と同じように刑事事件として裁かれることはあり得るのだ」
つまり、マコーネルは議会乱入を先導した罪そのものに対しては言及しなかったのである。そうして、弾劾裁判そのものの無効性を訴えたわけだが、暗にトランプは有罪だと示唆したのだ。
実際、前記したように、ロムニーら7人(リチャード・バー、スーザン・コリンズ、パット・トゥーミー、ベン・サス、ビル・カシディ)が有罪に入れた。その結果、100人の上院議員のうち有罪に入れたのは民主党と無所属の50人と共和党の7人となり、票決は57対43で、トランプは無罪となった。大統領の弾劾には上院議員の3分の2が必要だからだ。
弾劾裁判での衝撃の映像と州兵到着遅れ
ここで、弾劾裁判を振り返ると、初日から衝撃的だった。
弾劾管理人側から、議会襲撃事件がトランプの言葉に誘導されたと証明する、時系列で追った約14分間のビデオが公開されたからだ。
このビデオには、「反逆者ペンスを吊るし首にしろ!」とか、「ナンシー、ナンシー、どこにいるんだ」と叫ぶ武装した暴徒たちの姿が写っていた。また、警官に催涙ガスを吹き付け、ガスマスクをもぎ取るシーンや、議会職員が隠れている部屋のドアを激しく叩くシーンも、はっきりと写っていた。
そして、弾劾管理人のリーダーを務めたジェイミー・ラスキン下院議員は、裁判員の役割を果たす上院議員らに向かってこう訴えたのだ。「議事堂警察官の1人は、暴徒と対峙し、議事堂から全員を退去させた後、床に倒れ、15分間泣き崩れたという。これがアメリカですか?」
この映像だけを見ると、本当にこれが民主主義国家アメリカなのか、どこかほかの国の出来事ではないのかと、目を疑う。
しかし、トランプ擁護派は、裁判の4日目に、この映像が都合の良いところだけ切り取った恣意的なものであると、反論した。また、議会警察長官代理の時系列を追った詳細な証言で、群衆が議事堂に殺到し、800人が議事堂内に侵入してから、6回の出動要請を経た4時間後に、最終的に州兵が到着したことが明らかになった。なんで、こんな空白が生じたのか?謎のままだ。
いずれにしても、この騒ぎを起こしたのはトランプと彼の熱狂的なサポーターたちなのは間違いない。ただし、民主党側の動きも不可解で、両者のバックになんらかの勢力が見え隠れする。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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