連載506 山田順の「週刊:未来地図」知らないうちに定年消滅 、 「70歳就業法」施行で「死ぬまで働く時代」に!(中)
改正後の再雇用では会社員でなくなる
今回の「70歳就業法」では、前記した3点に加え、次の3点が加わった。
(4)他企業への再就職を支援する。
(5)個人事業主などとして業務委託の契約を結ぶ。
(6)社会貢献事業への参加。
(5)の業務委託とは、個人事業主やフリーランスとして、一度退職した後に会社の仕事を請け負うことを指す。
(6)の社会貢献事業は、企業が運営するNPO法人などで働くことを想定している。つまり(5)(6)の選択は、「会社員ではなくなる」ということを意味している。
具体的に言うと、前回の改正法までは、65歳までは賃金が安くなっても身分は会社員のままだった。しかし、今後は、業務委託などに移行する場合が主流となるので、会社との「雇用関係」がなくなるということだ。
つまり、労災や雇用保険の対象外となり、年末調整がなくなって確定申告が必要となる。 国は「70歳まで働ける」とは言っているが、その雇用は、いままでのように保証されたものではなくなるのである。
高齢者が働きたいが働く場所がないは本当か?
平均寿命が伸び、元気な高齢者が増えた。そうした高齢者の多くが、じつは「働くこと」を望んでいると報道されている。「働きたくても働く場所がない」のだと言う。私に言わせると、そんなバカなことがあるかと思うが、調査によると、これは事実だ。
総務省の「就業構造基本調査」によると、「働きたいが働いていない高齢者」の割合は、60~64歳は15%、65~69歳は22%、70~74歳は27%と、年齢が上がるごとに高くなっ ている。
そこで、国は「高齢者は働く意欲はあるものの、雇用の受け皿が整備されていない」として、定年をなくしていつまでも働けるように法改正をしてきたと言うのだ。
しかし、これは物事の一面しか見ていない、もっと言えば欺瞞ではなかろうか。
というのは、高齢者は本音では、働きたいなどとは思っていないからだ。年をとるにつれて、人間、もう働くのはたくさんだと思うのが自然だ。
では、なぜ、「働く場所がない」などと言うのだろうか? 高齢者が「働きたい」と調査で答えるのは、そうしないと満足な生活ができない、あるいは食べていけないからで、本当に「働きたい」わけではない。ただ、そう言わないと惨めなので、単に「働きたい」と答えるだけなのだ。
使い勝手がよく安く働かすことが可能に
厚労省の調査では、70歳以上の高齢者が働ける制度を設けている企業数は、全企業のうちの31.5%、約5万社とされている。このうちの3割以上が中小企業で、たとえば町工場などで働き手がいなくなったという、慢性的な「人材不足」から、そうしているという。
最近は大企業も高齢者の活用に積極的だが、これも同じ理由だ。経験のある高齢者なら。使い勝手がよく、賃金が安くてすむからだ。 では、今回の「70歳就業法」の施行で、企業はどんな選択をしようとしているのだろうか?
日本商工会議所などが発表した中小企業を対象とした調査では、もっとも多かったのが再雇用で56.4%、次が業務委託契約で17.4%となっている。 前記したように、業務委託契約による雇用では、従業員の労働環境がガラッと変わる。
雇用契約ではないので、労働法の保護は受けられない。過重労働を防ぐための労働時間規制も、最低賃金も適用されない。さらに、事故に遭っても労災による救済が不十分なうえ、社会保険料の事業主負担もなくなる。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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