連載512 山田順の「週刊:未来地図」日本政府は半導体パニックを軽視  台湾歓迎で自動車産業まで衰退の危機に!(上)

連載512 山田順の「週刊:未来地図」日本政府は半導体パニックを軽視  台湾歓迎で自動車産業まで衰退の危機に!(上)

  「ものづくり国家・日本」の“最後の砦”となっているのが、自動車産業です。ところが、コロナ禍などの想定外の事態と相次ぐアクシデントで、トヨタなどの自動車メーカーは半導体(セミコンダクター)を調達できず、減産に追い込まれることになってしまいました。
 日本政府の愚策により、これまで半導体産業は凋落を続けてきました。管政権もまた日の丸半導体を軽視して、台湾企業の日本進出を歓迎しています。このままでは、日本のものづくりは本当に終わりかねません。

ルネサスの工場火災による深刻なダメージ

 3月19日、ルネサス・エレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で火災が発生、鎮火まで5時間を要し、直径300ミリメートルの半導体ウエハーの生産ラインがほぼ焼失してしまった。

 那珂工場は、主に自動車の走行を制御する「マイコン」(マイクロコントローラー:Microcontroller Unit=MCU)と呼ばれる半導体ユニット(車載半導体)を生産しており、これをトヨタ、日産、ホンダなどの日本の自動車メーカーに供給している。

 火災から3日後、ルネサスは柴田英利社長がオンラインで会見し、「1カ月以内での生産再開にたどりつけるよう尽力する」と述べた。しかし、これはあくまで努力目標で、実際のところ、復旧には3カ月、悪くすると半年はかかるだろうと言われている。  そのため、日本の自動車メーカーは、いま、パニックに陥っている。とくにトヨタのダメージは大きい。ほとんどすべての下請けが、那珂工場からMCUを調達していたからだ。

 車載半導体は、いまや世界的に供給不足になっており、世界の多くの自動車メーカーが減産、生産中止を余儀なくされている。それに追い討ちをかけるようなルネサスの火災事故だった。

 ルネサスによると「在庫は1カ月しかない」と言うから、このまま供給不足が続けば、「ものづくり国家・日本」の“最後の砦”とされる自動車産業は衰退しかねない。そうなれば、日本の凋落はますます深刻化するだろう。

テキサス州を襲った寒波で供給不足が加速

 コロナ禍のなか、半導体の供給不足は、昨年半ばごろから懸念されていた。

 昨年2月、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まったとき、世界の自動車業界は生産調整に入った。コロナ禍で需要が大きく落ち込んだからだ。そのため、車載半導体を製造する「ファウンドリ」(foundry:自社では半導体の設計せずに受託により半導体を生産する企業のこと)も、生産を家電やスマホなどエレクトロニクス向けの半導体にシフトした。

 そして、さらにマイコンの供給不足を加速させる出来事が起こった。今年の2月、米南部テキサス州を襲った寒波である。この寒波により、大規模な停電が起こった。

 テキサス州には、マイコンのシェアで世界首位のオランダ「NXPセミコンダクターズ」と、3位の独「インフィニオン・テクノロジーズ」の工場があるが、ここが生産停止に追い込まれてしまったのである。  NXPは1カ月分の生産が消失したと発表し、インフィニオンは、生産が元の水準に戻るのは6月になるという声明を出した。

 その結果、フォード、ステランティス(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)、トヨタ、日産、フォルクスワーゲンは、生産の削減をせざるをえなくなった。また、それ以外の自動車メーカーも、2021年の生産目標を達成できないという見通しを次々に発表した。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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