連載514 山田順の「週刊:未来地図」日本政府は半導体パニックを軽視 台湾歓迎で自動車産業まで衰退の危機に!(中2)
米中ともに半導体産業を政府が援助
コロナ禍で、そちらにばかりに目が行き、現在、半導体の供給不足という大問題は、日本では見過ごされているように思える。半導体工場で火災が続いたというのに、管政権は、半導体産業を援助しようともしない。携帯電話料金の値下げなど、国民受けの目先の政策ばかりにとらわれ、未来に向けての産業戦略がない。
しかし、中国はいま、「中国製造2025」を掲げ、巨額の補助金を投じて、半導体の国内製造に向けて邁進している。中国の半導体産業は、いまのところ自給率20%ほどであり、高精細マイクロチップの製造、先端製造装置などの分野では、日本や欧米諸国に大きく遅れている。この遅れを縮め、2025年には自給率70%を達成しようというのが習近平政権の戦略だ。
アメリカから制裁を受けた「華為」(ファーウエイ)などのハイテク企業は、はすでに国産半導体への移行をはかりつつある。 一方のアメリカは、バイデン政権が半導体の供給不足の解消のため、動き出そうとしている。
すでに、インテル、クアルコム、マイクロン・テクノロジおよびAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)などの半導体企業のCEOたちは、連名で大統領に書簡を送り、アメリカ本土の半導体メーカーに対する政府支援を要請した。これは、安全保障という側面も加味したものだ。
かつてアメリカは、日米構造協議により、日本の半導体産業の競争力を奪い、世界シェア40%を達成した。しかしいま、世界シェアは12%まで落ちている。
米メディアが伝えるところでは、フォードなどの自動車メーカーと医療機器メーカーもまた、バイデン政権に対して、アメリカ国内での半導体生産施設の新規建設に補助金を出すよう要請したという。
ファウンドリもファブレスも育たず
欧米諸国では、ワクチン接種が進み、この夏にも経済が本格的な回復軌道に乗る見通しになった。そうなれば、ますます半導体の需要は高まる。
半導体がなければ、自動車はもちろん、AIもIoTも、ロボットも先端医療も、すべてが動かないのだから、半導体は完全な「戦略物質」である。
コロナ禍でワクチンが「戦略物質」になったが、残念なことに、いまの日本にはこの2つともない。かろうじて、半導体産業は残っているが、それは、一部に特化した半導体製造産業や先端装置産業であり、台湾TSMC、韓国サムスン電子のような大規模なファウンドリ、米クアルコムのような「ファブレス」(fabless:fab=工場がないという意味で、自社で生産設備を持たず、半導体の製造は外部企業に委託し、開発や研究、デザイン、マーケティングなどに特化した企業のこと)が、日本にはない。
なぜ、日本の半導体産業は凋落し、世界規模のファウンドリやファブレスが育たなかったのだろうか? 1度は半導体製造で世界のトップに立ち、圧倒的なシェアを誇ったというのに、この惨状はどうしたことなのだろうか?
その理由は、簡単には説明できないが、かつて私が編集者時代に出版した『日本「半導体」敗戦-なぜ日本の基幹産業は壊滅したのか?』(湯之上隆・著 光文社ペーパーバックス)を読んでいただければ、わかっていただけるだろう。
世界一になった成功体験から、過剰技術、過剰品質にこだわり、戦略的投資ができなかったこと。半導体が、一種のコモディティとなることがわからず、1社ですべてを行うかたちを維持して分業化を進めなかったこと。政府の産業政策に長期戦略がなく、迷走に迷走を続けたことなど、複合的な原因がある。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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