連載518 山田順の「週刊:未来地図」中国の台湾侵攻は近いのか? 「米中対立」激化のなか日本が取るべき一本道(上)

 

 

連載518 山田順の「週刊:未来地図」 中国の台湾侵攻は近いのか? 「米中対立」激化のなか日本が取るべき一本道(上)

 

 

 ここにきて、米中の対立がにわかにきな臭くなってきました。先日、アラスカで行われた米中の「2+2」会談では、激しい非難の応酬があり、その後も両国の非難合戦は続いています(この記事の初出は3月30日)。また、アメリカ軍の司令官が「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と議会で証言したこともあり、米中戦争が近いという声も上がるようになりました。

 しかし、日本のスタンスは定まっていません。尖閣諸島問題を抱えているにもかかわらず、明確な台湾防衛、対中対決路線を打ち出せていません。日本が取るべき道は一つしかないのに、これでいいのでしょうか。

台湾有事が起こっても「注視する」だけ?

 加藤勝信官房長官の答弁は、いつも煮え切らないうえ、具体性に欠く。3月24日の記者会見もそうだった。

 4月9日と言われていたワシントンDCでの日米首脳会談(バイデン・菅会談)を前に、記者からアメリカ側から日本の防衛能力の強化の要求が出るのではないかと質問され、「現下の厳しい安保環境のなかで、自らの防衛力をより強固にし、日米同盟をさらに強化するために防衛能力を向上させることは重要であると認識している」と答えたのだ。

 単に、「当然、議案に上がる」などと答えればいいものを、なぜ、こんな言い方をするのだろうか?

 すでに、アメリカ側は日本に防衛力強化を求めることを表明している。日本のミサイル・ディフェンスの強化は、日米同盟にとって急を要する課題だからだ。

 この会見の前日にも、次期インド太平洋軍司令官に指名されたジョン・アキリーノ太平洋艦隊司令官が、上院軍事委員会の指名承認公聴会で、日本の防衛力強化の重要性を指摘した。さらに、台湾有事をめぐって彼は、「予想より近い」との見解を述べた。

 また、インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官は、3月9日の上院軍事委員会の公聴会で、今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性があると証言していた。

 そのため、24日の会見では、台湾有事に関する日本の対応についての質問も出た。しかし、加藤官房長官の応答は、またしてもあいまいだった。

 「いかなる事態においても領土・領海・領空、国民の命と平和な暮らしを守り抜く。政府のもっとも重要な責務を果たす」と言い、さらにお決まりのように、「中国と台湾の平和的な対話による解決」を期待しているとし、「両岸関係の推移を注視していく」と続けたのだ。

 つまり、「責務を果たす」というのは台湾防衛ではなく、自国の防衛。台湾に関しては、「注視」するだけなのである。

日本とアメリカで異なる対台湾スタンス  

 もちろん、日本と台湾の間には友好関係はあっても、正式な外交、同盟関係はない。日本は、中国が主張する「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」(一つの中国政策)を認め、その立場を「理解」(understand)し尊重」(respect)するとしているからだ。

 アメリカもまた、「中華人民共和国を中国の唯一の合法的政府」として承認 (recognize)しており、「一つの中国」を「認知」 (acknowledge)している。ただし、日本と違うのは、中華民国との間に「米華相互防衛条約」の後継法である「台湾関係法」を結んでいて、同盟関係にあることだ。

 しかも、トランプ政権からは、明らかに「一つの中国」を認めなくなった。マイク・ポンペオ前国務長官は、繰り返し中国を非難したうえ、昨年11月には、明確に「台湾は中国の一部でない」と発言した。

 このように、日米のこれまでの台湾に対する外交スタンスはかなり違っている。だから、先の加藤官房長官の答弁は、この違いから来ているとも言えるが、現在の東アジア情勢から見れば、ありえないものだ。

 加藤官房長官の頭ななかは、旧時代のままなのではないか。どんな問題も「注視」していればそれで済むと思っている。 (つづく)

この続きは4月22日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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