連載519 山田順の「週刊:未来地図」 中国の台湾侵攻は近いのか? 「米中対立」激化のなか日本が取るべき一本道(中1)

連載519 山田順の「週刊:未来地図」 中国の台湾侵攻は近いのか? 「米中対立」激化のなか日本が取るべき一本道(中1)

アメリカに従い初めて「人権問題」を非難

 アメリカが中国と対決し、台湾を再重視する戦略に出たのは、中国の拡張路線がアメリカの権益を侵し始めたからである。「一帯一路」は、明らかにアメリカの持つ世界覇権への挑戦だった。

 トランプは貿易不均衡、不公正経済を問題にしたが、現在のバイデン政権は、非難の対象を主に人権問題に移した。

 ところが日本は、これまで、中国の拡張主義を批判しても、人権問題を非難したことはない。そのため、態度を変えるようにアメリカに迫られたようだ。

 それが、3月16日に行われた日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議(「2+2」会談)である。日本からは茂木敏充外相、岸信夫防衛相、アメリカからはアントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官が出席し、協議後に共同声明が出た。

 この共同声明で、両国は尖閣諸島が改めて日米安保の適用範囲だと確認するとともに、中国を名指しで非難した。そして、台湾海峡の平和と安定が重要としたうえで、香港問題や、少数民族への抑圧が続く新疆ウイグル自治区の人権状況についても言及し、「深刻な懸念」を表明したのである。

 アメリカに同調としたとはいえ、日本が中国の人権問題を非難したのは、これが初めてである。

 当然、中国は激しく反発した。趙立堅(チャオ・リーチャン)報道官は、「日本はアメリカの顔色をうかがい付き従っているだけだ」と述べ、「著しい内政干渉だ!」と反論した。

アラスカ「2+2」での激しい応酬

 東京の「2+2」会談が伏線となったのか、その後、アラスカで行われた米中「2+2」では、アメリカと中国が面と向かって激しい非難の応酬を繰り広げた。

 このことがあったため、日本のメディア、言論界は、いまもさかんに台湾有事の可能性について論議している。そこで、このときのやりとりに触れ、応酬合戦の意味するところを考えてみたい。

 アメリカ側はアントニー・ブリンケン国務長官とジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、中国側は楊潔篪(ヤン・チエチー)中国共産党中央政治局委員と王毅(ワン・イー)外相とが出席した。

 ブリンケンはオバマ政権でも外交を担当していたので、中国側の2人とは旧知の仲である。

 ところがブリンケンは、外交儀礼をそこそこにして、冒頭から、「新疆ウイグル、香港、台湾」問題を持ち出し、中国に態度を改めるよう要求した。

 これに対し、楊潔篪は、延々と反論した。「アメリカにはアメリカ式の、中国には中国式の民主主義がある。アメリカは自らの民主主義を押し広めるべきではない。新疆ウイグル自治区、チベット自治区、台湾は中国の不可分の領土であり、内政干渉には断固として反対する」

 「中国人はその手は食わない。アメリカは中国に上から目線で話す資格はない」

 「アメリカには黒人虐殺の歴史があるのに、なにを言っているのか」

 この会談は、冒頭の2分間だけメディア公開という段取りだった。ところが、プレスが退出しようとすると、互いに「待て」と阻止。なんと、1時間も米中対立がメディアに映し出されてしまった。

 こうなると、報道は当然、ヒートアップする。米中対立はホンモノ、アメリカは本気だとなって、中国が台湾に侵攻すれば米中戦争もありえるというムードになったのである。 

(つづく)

この続きは4月22日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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