連載523 山田順の「週刊:未来地図」「脱炭素社会」の罠に落ちた日本 EVと炭素税で自動車産業まで失う危機(上)
4月22日、バイデン大統領が世界に呼びかけた「気候変動サミット」が開かれる(この記事の初出は4月6日)。バイデン政権はトランプ前政権が離脱した「パリ協定」に復帰し、「脱炭素社会」に向かってEUとともに邁進する予定だ。慌てた日本も、この動きに足並みをそろえ、菅義偉首相は柄にもなく「カーボンニュートラル」を提唱し、2050年に実現させると表明した。
しかし、脱炭素社会実現の切り札とされる「EV」(電気自動車)で、日本は大きく出遅れている。また、「再生可能エネルギー」による発電も進んでいない。「炭素税」に関してもコンセンサスができていない。
となると、このまま漫然としていれば、日本は“最後の砦”の自動車産業まで失いかねない。
今回は、日本が置かれている危機的現状をレポートする。
バイデンが呼びかけた気候変動サミット
この4月22、23日に開かれる「気候変動サミット」で、日本の将来が大きく変わると言っても過言ではない。それほど、今回のサミット(首脳会談)は重要だ。
なぜなら、もうほぼ外堀は埋まってしまったが、ここで日本はアメリカとEUが進める「地球温暖化対策」(カーボンニュートラル政策)に同調させられるのが間違いないからだ。
今回のサミットは、バイデン大統領が世界に呼びかけたもので、EU各国から、ロシア、インド、中国など世界40カ国の首脳が参加し、ヴァーチャルで行われる。
最大の注目は、なんといってもアメリカの「パリ協定」復帰。そして、今年の11月に予定されている「COP26」(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)に向けての国際枠組みの確立だ。
すでに、バイデン政権は、トランプ前大統領が無視してきた「グリーンニューディール」(地球温暖化防止と経済格差解消を両立させた経済刺激策)を大胆に進めることを表明している。3月31日に発表された2兆ドルの「インフラ投資計画」にも、環境対策は盛り込まれた。たとえば、EVを普及させるための充電設備を2030年までに全米で50万カ所設置する、スマート電力網の整備に1000億ドルを拠出するなどだ。
世界に遅れた「カーボンニュートラル」宣言
はっきり言って、日本の地球温暖化対策は進んでいない。温暖化そのものを否定したトランプ時代は進める必要はなかったかもしれないが、大統領がバイデンとなったいまはそうはいかない。
菅義偉首相は、昨年秋、世界に遅れて「カーボンニュートラル」宣言を行い、「国内の温暖化ガスの排出を2050年までに実質ゼロ」とする方針を表明した。
今回の「気候変動サミット」の1週間前の4月16日、菅首相は訪米してバイデン大統領と首脳会談を行う。バイデン大統領が対面で最初に会う外国の首脳が菅首相とあって、ご本人も日本政府もすっかり気をよくしているというが、それは表向きの話。現実は、日本にとって厳しい現実が待っている。
まず、間違いなく、対中戦略での軍事的協力の強化を約束させられる。すでに台湾防衛に関して、日本も軍事的に参加することは決まっている。ミサイルディフェンスも強化される。
そして、環境政策でも協力を求められるのは間違いない。
すでに共同声明はほぼ決まっていて、そのなかに脱炭素社会を実現するために、日米両国が連携して世界を支援していくことが盛り込まれるという。
そのため、この問題に疎い首相は、3月31日に、官邸内で気候変動対策を話し合う有識者会議(座長・伊藤元重学習院大教授)の初会合を開いた。ここでは主に、2030年度の温室効果ガスの削減目標に関して話し合われたという。今後、日本がどう地球温暖化と向き合い、政策をどうすべきか議論は百出したが、進展はなかったと聞く。
しかし、日本が環境政策をどう決めようと、すでにアメリカとEUや英国との間では大枠で話がついている。 バイデン政権は、大物のジョン・ケリー元国務長官を気候変動特使に任命し、各国と精力的に話を進めてきた。
たとえば、英国のボリス・ジョンソン首相とは、2050年にカーボンニュートラルを実現することを確認し合った。日本抜きに、世界の「脱炭素社会」の枠組みの話し合いは進んでいるのだ。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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