連載525 山田順の「週刊:未来地図」「脱炭素社会」の罠に落ちた日本 EVと炭素税で自動車産業まで失う危機(中2)
ドイツがEVしか認めなくなった理由
現在、EUでは2023年を目途にLCAの導入が検討されている。EVしか認めないうえ、さらにライフサイクル全体でも徹底してCO2を削減しようというのだ。
そこで思うのは、それにしてもなぜEUはEVしか認めないのだろうか?ということだ。
EUと言っても、英国が抜けた以上、EUは「ドイツ連邦」と言っても過言ではない。EUの盟主はドイツであり、ドイツこそが世界でいちばん厳しい環境対策を行っている。2022年に原発を完全に停止するとし、再生可能エネルギーへの転換を急速に進めている。
このドイツの姿勢は当初から一貫しており、環境政策を進めることと産業政策を一体化させて、次の時代をリードしていくというのがドイツの戦略である。そのため、ドイツは、初めから「HEVはEVではない」としてきたのである。
このことを確定させたのが、ドイツの厳しいCO2排出規制をクリアして、トヨタがHEVのベストセラーとなったプリウスをつくったことだ。ドイツの自動車メーカーはプリウスに衝撃を受け、日本車排除の動きに出た。なぜなら、ドイツの自動車メーカーの技術ではプリウスを超えるクルマをつくれないからだ。
つまり、いくら単体でEVよりエコだからといって、HEVを認めるわけにはいかないのである。
ドイツを超えられるか?日本のEV
もう一つ、ドイツの自動車メーカーが、エコカーをEVに1本化した大きな理由がある。
それは、2015年に発覚したフォルクスワーゲン(VW)による排ガス不正問題だ。これは、排ガス試験のときにだけ起動するプログラムによって排ガス試験を潜り抜け、走行時には窒素酸化物を垂れ流していたという、きわめて悪質な不正だった。これで、VWの評判は地に落ちた。
そのためVWは、以後EVに傾注するほかかくなったのである。
EVはさして高い技術力を必要としない。部品数も従来のガソリン車に比べて少ないうえ、モジュール生産ができる。つまり、EVをスタンダードにしてしまえば、日本車を排除でき、地に落ちた評判を回復できる。ドイツという国は、歴史的に欧州列強のなかで揉まれてきたので、じつにしたたかである。
つまり、環境問題と言っても、それは政治問題なのである。 いまやトヨタの時価総額を、EVしか製造していないテスラが上回る時代になった。ドイツの戦略は、こうして着々と実を結ぼうとしている。
もちろん、この流れに対して危機感を抱いた日本の自動車メーカーは、EVの開発も進めてきた。日産は、日本企業とは言い難いが、日本の自動車メーカーとしてはEV開発の口火を切って2010年に「リーフ」を発売し、2017年には2代目リーフを登場させた。
遅れていたトヨタは、2019年の東京モーターショーで、EVコンセプトカー「LF-30 Electrified」を発表した。ホンダも、同モーターショーで、量産型のEV「Honda e」を日本デビューさせた。こうして現在、日本発のEVが出そろった。
しかし、日本が超えなければならないハードルは、まだまだ高い。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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