連載526 山田順の「週刊:未来地図」「脱炭素社会」の罠に落ちた日本 EVと炭素税で自動車産業まで失う危機(下)
温暖化対策の切り札とされる「炭素税」
現在、自動車メーカーも含めて、世界中の産業が注目しているのが「炭素税」(carbon tax)である。
じつは、4月16日に行われる日米首脳会談でも、炭素税について話し合われるのは確実とされている。すでに、アメリカの姿勢は決まっている。
バイデン政権は、気候変動サミットで、パリ協定復帰のデモンストレーションとして、パリ協定の「2030年CO2排出26%削減」を超える大胆なCO2削減策を提唱するとされている。併せて、世界各国に炭素税の実施に対しての理解を求めるという。 となれば、日本としても、炭素税をどうするのか決断を迫られることになる。
では、炭素税とはいったいなんだろうか?
いま問題になっているのは、「国境炭素税」というもので、これは、簡単に言えば、地球温暖化対策が不十分な国からモノを輸入する場合、そのモノに対して税金を課すというものだ。つまり、かたちをかえた関税である。
すでにEUは今年の6月には、国境炭素税に関する方針を策定するとされ、アメリカも、この動きに同調すると言われている。となれば、日本も同じような選択をする以外に道はない。
ドイツを超えられるか?日本のEV
では、炭素税の税率はどうやって決めるのだろうか?
それは、前述した「LCA」、つまり、ライフサイクルによる評価である。簡単に言うと、 CO2排出量がゼロのEVでも、それを動かす電池の電力が化石燃料発電の場合、そのCO2排出量に応じて課税する。
では、輸入品に対する国境炭素税はどうやって決めるのだろうか?
たとえば、EU域内の炭素税率が1トン100ユーロとする。そして、輸出国の炭素税がユーロ換算で1トン50ユーロとすれば、その差額の50ユーロが関税として課せられることになる。
前述した異例の記者会見で、豊田社長はこう述べた。「LCAで考えると、フランスでつくる『ヤリス』のほうが日本でつくる『ヤリス』より環境にいい車になる」
日本の化石燃料による発電の比率は約75%だが、フランスでは5%に過ぎないからだ。(ただし、フランスの発電における原子力の比率は77%)
つまり、EUが国境炭素税を課すことになったら、日本車は圧倒的に不利になる。日本はいま原発を止めている。その結果、豊田社長が憂いたように、電力の化石燃料比率が75%に達しているので、その分、CO2排出量が多いとカウントされてしまう。
ドイツのVWはしたたかである。すでに炭素税の導入を見越してスウエーデンに電池工場を建設した。スウエーデンの電源は水力が40%、原子力が40%で化石燃料はわずか1%なので、炭素税は大幅に軽減される。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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