連載530 山田順の「週刊:未来地図」マスクなしの日常生活はいつからできるのか? 高齢者優先のワクチン接種への疑問(下)
EUでの生産トラブルで供給が大幅遅れ
米英が先頭を走り、EU諸国が続いているとはいえ、EU諸国は当初、大きく出遅れた。また、カナダも出遅れた。
なぜ、EU諸国とカナダは遅れをとってしまったのだろうか?
EUの出遅れの原因は、域内に生産設備を持つメーカーに生産トラブルが発生したからだ。そのため、アストラゼネカは、EUと約束した1~3月期の供給量の40%しか供給できなかった。ファイザーの欧州工場も生産が遅れ、ドイツ、フランスなどEU主要国は誤算続きとなった。
じつは、この影響をもっとも受けたのが日本である。なにしろ日本は、厚労省の役人がファイザーの日本法人と取り決めを交わしただけだったから、後回しにされたのである。4月9日になってやっと、河野太郎ワクチン担当大臣は、3600万人の高齢者が2回接種するのに必要な量のワクチンを6月中に確保できる具体的な見通しがついたと、記者会見で明らかにした。
カナダの場合は、いち早く動いて全人口の5倍もの量を確保したと発表していた。これはトランプ政権が続き、ワクチン輸出を禁止しかねないと判断したからだった。ところが、アストラゼネカなどEU域内生産のワクチンに頼りすぎてしまい、それが結果的にアダになってしまった。
イスラエルなどの小国が成功した理由
それでは、なぜ、イスラエル、UAE、セルビア、ブータンなどの小国がワクチン確保に成功したのだろうか?
イスラエルの場合は、現時点で、国民の半数以上の2回接種が終わり、集団免疫が達成されつつある。接種証明であるワクチンパスポート(「グリーンカード」と呼ばれている)が発行され。これによって日常生活は完全に元に戻っている。
ワクチン成功の立役者は、ネタニヤフ首相である。彼は、自ら製薬メーカートップと直接交渉してワクチンを確保したうえ、購入金額に糸目をつけなかった。言い方を変えれば、金持ち国家だからできたとも言える。トップが自ら動き、十分な資金があったからできたのである。
UAEも金持ち国家だから成功した。早くから中国と協力してシノファームの臨床試験に応じてワクチンを確保。現在、接種ワクチンの8割が氏のファームだが、接種率はイスラエルに次いで世界2位である。しかも、UAEは国内にシノファームの製造拠点を建設し、今後、接種が進んでいないアフリカ諸国へ供給しようとている。
ブータンは4月8日、全人口約77万人中47万人が1回目の接種を済ませたと発表した。これは人口の半分以上である。ブータンのワクチンは、アストラゼネカがインドで生産したもので、インドがブータンに援助したもの。人口が少ないので、全量、インドの援助でまかなえたのである。
皮肉なことに、インドはワクチン供給国なのに、自国では接種が進展していない。すでに接種人口は6000万人を超えたとされるが、全人口は約14億人。アメリカの人口の約4.5倍だから、集団免疫を獲得するには時間がかかり、来年半ば以降になるのではされている。これは同じような人口大国である中国も同じだ。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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