連載535 山田順の「週刊:未来地図」株価は永遠に上がり続けるのか? いま蘇る「大恐慌」の教訓(下1)
借金してまで株を買う「投資ブーム」
トランプ前大統領は、中国に対抗するために関税を引き上げたが、それはまさに現代の「スムート・ホーリー法」である。このような保護主義政策が、経済を冷やすことを忘れてはならないだろう。 もちろん、暴落の原因には、株価がバブルだったこともある。1920年代のアメリカは、空前の「投資ブーム」が起こり、国民はこぞって株を買っていた。
株価が上がれば上がるほど、人々は借金をして株を買い、銀行も仲介業者を通して喜んで投資資金を貸し出した。レバレッジと信用取引で、借金額は膨れ上がる一方だった。
当時、仲介業者が扱っている株の額面価格の3分の2以上が借金だった。その額は85億ドル以上に達し、それはなんと、当時アメリカ国内で流通していた貨幣の総額を上回っていた。
スタンダード・アンド・プアーズの評価株のPERは、1929年9月時点で32.6倍。これは、当時としては歴史的な高水準だった。いまでは、PERは30~40倍でも「適正水準」と言われるが、当時としては異常で、株価は明らかに割高だった。
しかし、誰もそうは思わなかったのである。
「ブラックサーズデー」までの経緯
1929年3月、「どのガレージにも車2台を!」というスローガンを掲げて圧勝したフーバー大統領が就任すると、関税法案は本格的な審議に入った(当時の大統領の就任はいまと違い3月)。
審議が進むなか、3月24日、「ニューヨーク・タイムズ」は、『ワトソン議員、関税で難航を予想』という記事を掲載した。 「共和党の上院院内総務、ワトソン議員は23日、特別会期での法案審議についてフーバー大統領と会談後、関税見直しを数品目にとどめようとしている政府の計画は、議会で多くの反対に見舞われるだろうと語った。(中略)同議員によると、各上院議員のもとには、事業に影響のある品目について関税引き上げを求める企業が殺到しているという」
これで、またしてもNYダウは下落した。翌25日のNYダウは4.11%安の297.50ドルと、300ドルを割り込んだ。
しかし、夏になると反関税派が勝利するとの観測が強まり、NYダウは上昇に転じた。7月31日に347ドル、8月30日に380ドル、9月3日には、前記したように当時の史上最高値である381.17ドルを付けたのである。
ただ、その後は下げに転じ、10月に入ると350ドルまで下落し、運命の「ブラックサーズデー」を迎えることになったのだった。 「ブラックサーズデー」の当日、議会ではスムート上院議員をはじめとする保護主義派共和党議員の作成した関税引き上げ法案をめぐって、賛成派と反対派の激しい駆け引きが行われていた。そんななか、GMの株価が80セント下落した。それをきっかに、売りが売りを呼び、株価は暴落した。
午前中は賛成派が優勢だったが、午後は反対派が巻き返した。その影響と緊急措置が取られたため、終わってみればNYダウは終値299.47ドルで、2.09%の下げにとどまった。
しかし、この後、「ブラックフライデー」を経て「ブラックマンデー」「ブラックチューズデー」と、底なし沼に沈んだ。そうして2週間後の11月13日、NYダウは198.60ドルという、当時の一時的な底値を付けたのである。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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