連載536 山田順の「週刊:未来地図」株価は永遠に上がり続けるのか? いま蘇る「大恐慌」の教訓(完)
賃下げの抑制政策が失業者を増やした
フーバーの失業対策の最大の目玉は、賃金下げの阻止と賃金水準の維持だった。フーバーは、株価暴落直後の1929年11月、自動車王のヘンリー・フォードをはじめとする産業界の大物たちをホワイトハウスに集め、賃金水準の維持を呼びかけた。これにフォードらは同意し、以後、アメリカでは賃金は下がらなかった。
そのため、失業者の苦しみは増した。賃下げが事実上禁じられたことで、企業は、技能や経験の乏しい労働者を安い賃金で雇うことができなくなった。また、賃下げができないなかでコストを下げることになったので、首切りが横行した。
失業率は、株価の大暴落前の1929年1月から10月までの平均が2.44%だったのに対し、暴落後の11月は5.0%、12月は9.0%に上昇した。その後、毎年ごとの失業率は、1930年が14.4%、1931年が19.8%、1932年が22.3%、フーバーが退任した1933年3月には28.3%にも達した。
恐慌が続くなか、企業もついに音を上げた。1931年9月、USスチールがついに賃下げに踏み切った。1932年になると、フォードも賃下げをせざるをえない状況に追い込まれた。
いま、アメリカでは、各州で最低賃金のアップが行われている。ニューヨーク州ではすでに15ドルに引き上げられ、カリフォルニア州では今年の7月から15ドルになる予定だ。日本でも、安倍前政権は企業に賃上げを強制し、いままた管政権は最低賃金の引き上げを行おうとしている。
このような政策が、かえって失業者を増やすことを、いまの政治家はわかっていない。歴史に学んでいない。
いま再び繰り返される「ニューディール」
大恐慌下のアメリカでは、失業者が街にあふれた。その数トータルで1500万人を超え、ニューヨークのセントラル・パークには、ホームレスがつくった掘っ立て小屋(通称フーバービル)が建ち並んだ。
中西部は、干ばつの影響もあり、農民の生活が困窮。借金が返せなくなった約40万人の農民は、土地を失ってカリフォルニアへ移住した。その苦難の旅路を描いたのがスタインベックの小説『怒りの葡萄』だ。
金融システムは崩壊した。中小銀行は相次いで倒産し、全米各地で暴動や商店の襲撃が起こり、デモ隊と警官隊が衝突を繰り返した。昨年まで、アメリカ各地で起こった「ブラック・ライブズ・マター」の暴動の状況が、このことに重なる。
フーバー大統領の後、ルーズベルト大統領も、経済回復と失業者救済のため、公共事業拡大、道路整備、ダム建設などの「ニューディール」を行った。しかし、結局、経済は回復せず、アメリカが大不況から脱し、成長軌道に戻るのは1941年になってからだった。政府が経済に介入すればするほど、バブル崩壊後の不況は長引き、経済は低迷する。
コロナ対策としてバイデン大統領はトランプ前大統領と同じく、大規模な財政出動の道を選択した。現金給付、失業給付、インフラ整備などで1兆9000億ドル。これで、アメリカのコロナによる財政出動は総額6兆ドルになり、日本のGDPを軽く超えた。ルーズベルトの「ニューディー ル」となんら変わりない。
はたしてこの結果がどう出るのか?
まだ、バブルが崩壊してさえいないので、なんとも言えないが、コロナ禍が収束すれば、そのときにはハッキリするだろう。
(了)
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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