連載549 山田順の「週刊:未来地図」ワクチン接種遅れで世界の孤児になる日本人、 富裕層も中間層も続々国外脱出か(完)
EUもアジア諸国もワクチンパスポートを導入
ワクチンパスポートに関しては、すでに多くの国が導入している。もっとも先行したのは、ワクチン接種が世界最速で進んだイスラエルだ。イスラエルのワクチン接種証明証「グリーンパスポート」は、いまや国内ばかりか、世界中で効力を認められつつある。
EUでは、この6月からワクチンパスポートを導入する。EUが承認したワクチンの接種を受けた証明があれば、EU域内への観光入国を認め、また域内での移動も自由にする。EUでは、基本的にWHOが緊急承認したワクチンリストを使用しているので、シノファームのワクチンも承認される可能性が高い。
アジアでもワクチンパスポート導入が始まろうとしている。韓国政府は、来月5日から、国内でワクチン接種を終えた人が帰国した場合、検査で陰性ならば2週間の隔離を免除すると発表した。 また、タイは、7月1日からワクチン接種を受けた外国人旅行者を隔離なしで受け入れると表明している。同様なことはフィリピンも表明している。
世界中のエアラインが加盟するIATA(イアタ:国際航空運送協会)や観光業界は、ワクチンパスポートの導入を切望してきた。
そうした声を受けて、WHOは6月末までに、ワクチン接種証明アプリ(デジタル・ワクチンパスポート)、あるいは紙の接種証明書の最初のサンプルを公表する予定だ。
ワクチン接種の有無によって格差が広がる
それにしてもなぜ、日本はコロナ対策においてすべてが後手後手なのだろうか? これまでの1年間、ただ、右往左往するだけで、ほぼなんの手も打ってこなかった。 ワクチンパスポートに関しては、河野太郎行政改革担当相が、国会で「各国が導入している。日本でも検討する必要があるだろう」と答弁したきりで、導入に向けての取り組みがどこまで進んでいるのかは、まったくわからない。
そのため、アメリカでワクチンを接種した帰国者にも、いまだに、「出国前72時間以内の陰性証明書」と 「誓約書」を提出させ、追跡用のスマホアプリと、空港での抗原検査を行っている。
もちろん、百歩譲って、このような対策はやってもいいだろう。ただ、問題は、政府がワクチンパスポートによるワクチンツーリズムに対して、なんの問題意識もないことには、情けなさを通り超して、あきれるしかない。
世界はいま、猛スピードでワクチン接種が進み、それとともに、社会、経済が元に戻ろうとしている。しかし、その流れに乗るには、ワクチン接種が必要だ。ところが、多くの日本人は、いま、ただ、接種の順番を、首を長くして待っているだけなのである。 そんななか、一部の富裕層、余裕のある中間層は、今後、ワクチンツーリズムに促され、どんどん国外に出ていく。そうなれば、それができない庶民層との格差は、どんどん広がるだろう。これは、経済格差が安全格差にまで拡大するということを意味する。
世界中で、ワクチン接種を終えた人々が自由に動き回っているのに、日本人だけが国内に閉じ込められたまま、身動きがつかない。そんな現実が、目前にせまっている。 どうやら日本政府は、ワクチンが最大の経済対策、格差是正対策だということを知らなかったようだ。
ワクチンで日本一人負けのGDP
グローバル経済は、ヒト、モノ、カネが国境を超えて自由に移動できることで成り立っている。ところが、ワクチンパスポート がないと、もっとも重要なヒトは動けない。そうなれば、経済が停滞するのは、当然だ。
いまや、ワクチン接種によって経済格差が開くことが明白になった。これは、すでに、統計に表れている。
2021年第1四半期(1~3月)のGDPの統計を見ると、アメリカは前期比年率プラス6.4%である。これは、3四半期連続のプラス成長で、ワクチン接種がこのまま進めば、第2四半期(4~6月)はさらに伸長し、第3四半期(7~9月)には完全なる正常化が達成されるだろう。
ではユーロ圏はどうだろうか?ユーロ圏の第1四半期は前期比マイナス0.6%で、まだプラスに転じていない。しかし、ワクチン接種は進んでいるので、第2四半期にはプラスに転じる可能性が高い。
しかし、日本はそうはいかない。日本の第1四半期のGDPは、政府から5月18日に公表されるので、推測の域を出ないが、すでに発表された日本経済研究センターの「EPSフォーキャスト」では、前期比年率マイナス6%程度になるとされている。ここから、第2四半期でどれだけ伸長できるかだが、3度目の緊急事態宣言が発令中なので、プラスに転じる可能性は極めて低い。
以上、アメリカ、ユーロ圏と比較したが、中国は比べるべくもなく、日本のはるか先を行っている。
いまや日本は、ものすごい勢いで衰退しようとしている。はたして、東京五輪は本当に開催されるのか?いま、言えることは、開催されようと中止になろうと、この秋には、日本の衰退は、もはや疑いのないものになっているのは間違いないということだ。
(了)
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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