連載550 山田順の「週刊:未来地図」経済も株価も「一人負け」、 ポストコロナで日本は巻き返せるのか?(上)
アメリカ経済は急速に回復している。欧州もそれに続いている。中国はとっくの昔にコロナ以前の水準に戻った。それに比べて日本経済は低迷したまま、この先、回復する兆しすらない。株価も一時はNYダウと同じように上げたが、いまはNYダウが上げても下がるという悲惨な状況になってきた。
こうした現状のなにもかもが、ワクチン接種の遅れが原因だと、最近のメディアは言い続けている。たしかにそうかもしれないが、では、ワクチン接種が進めば、経済も株価も回復するのだろうか?
消費がコロナ禍以前を上回ったアメリカ
東京五輪開催まで、あと2カ月となった(この記事の初出は5月18日)。関係者によると、「いつでも中止を宣言できる」というので、いまさら、この件についてはなにか言う気も起きない。
それよりも気になるのは、経済と株価だ。このまま、日本はいつまで低迷を続けるのだろうか? アメリカをはじめ、世界を見渡せば、日本は「一人負け」という現状である。
とくにアメリカ経済の回復ぶりは目を見張る。2021年1~3月期の実質GDPは、前期比年率換算で6.4%を記録した。成長率も前期の4.3%からさらに高まった。
アメリカ商務省が4月15日に発表したデータによると、今年3月の小売りの売上高は、対前月比で9.8%増という大幅な伸びになった。対前年同月比では、小売総額はなんと27.7%増、外食は36.0%増、ガソリンは34.8%増となっている。
すでにアメリカの消費は回復し、コロナ禍以前を上回るようになってきたのだ。
消費を牽引しているのが、高級品市場である。
アメリカの3月の宝石販売は、前年同月比で約2倍に拡大した。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのアメリカ市場における1~3月期売上高は、時計・宝飾品が好調で、比較可能な前年同期比で23%増となった。NYのサザビーズの売上も急伸した。コロナ禍のなかの金融緩和で、市場に溢れたマネーが株をはじめとする金融資産に向かうとともに、高級品市場にも向かったのである。
ユーロ圏は、2021年1~3月期のGDP成長率は、前年同期比で2020年10~12月期に続きマイナスを記録した。しかし、4月以降は回復の兆しを見せている。いまや、イギリスはユーロ圏ではないが、IMFの最新「世界経済アウトルック」では、イギリス経済は2021年、2022年と2年続けて5%の高成長を遂げるという見方が示されている。
中国は、いまさら言うまでもないだろう。1~3月期GDP成長率は前年同期比18.3%増と過去最大の伸びを記録した。そのため、コロナ禍からのV時回復は終わり、今後は順調に、潜在成長率の水準に戻っていくとされている。
ワクチン接種の進展で開放された人々
このような世界経済の回復を支えたのは、ワクチン接種の進展と、予想以上の速さで進みつつある社会の正常化だ。とくにアメリカとイギリスは正常化が顕著だ。
英国では、ジョンソン首相が6月からの社会の完全正常化を宣言している(ただ、インド株流入で遅れる可能性もある)。
アメリカでは、カリフォルニア州が6月15日から経済活動の全面的再開を宣言している。ニューサム知事の表明は早く、すでに4月6日の時点で再会宣言がなされている。
ニューヨークは、デブラシオ市長が、4月29日、市内の経済活動を7月1日に全面的に再開する方針を発表した。すでに、ほとんどの規制が撤廃されており、ワクチン接種を済ませた市民は屋外ではマスクなしで行動している。
このような経済回復をもたらした原因は、ワクチン接種による感染者数、死者数の減少だ。アメリカでも英国でもワクチン接種の進展とともに感染者数、死者数は目に見えて減り、人々の安心感が経済活動の活発化をもたらした。人々は、1年あまりの抑圧された日々から開放されたのである。
アメリカの場合、こうした開放感が一気に消費に向かったと言えるだろう。また、コロナ禍の最中に3回にわたって給付された直接給付金の影響も大きい。英国でもドイツでも、給付金はバラまかれた。しかし、日本ではたった1回、1人10万円だけだった。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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