連載553 山田順の「週刊:未来地図」経済も株価も「一人負け」、 ポストコロナで日本は巻き返せるのか?(下)
経済回復で深まる格差と富の偏在化
いつまで待とうと回復しない日本経済と、劇的に回復していく世界経済。そのどちらにも共通する、ポストコロナ経済の問題点がある。
それは、今後、格差がますます開き、富が偏在化するということだ。
英オックスフォード・エコノミクスによれば、2020年3月~2021年1月で、アメリカ国内の所得上位20%は貯蓄を約2兆ドルも増やしている。その一方で、下位20%の貯蓄は1800億ドル超減少したという。
富裕層は資産投資や高級品消費におカネを使いまくり、その一方で、「持たざる層」(have-not)は困窮する一方という。
アメリカでは、2021年3月に、家賃を滞納している世帯は約1000万世帯もあったという。これは、全借り手世帯の2割に上る。滞納世帯は、年収7万5000ドル以上の世帯では9%だが、年収2万5000ドル以下の低所得世帯では27%に上る。コロナ禍は、格差社会の進行に拍車をかけているのだ。
ワクチン接種が進み、コロナ収束後のポストコロナ時代が訪れても、この傾向は変わらないだろう。
日本の場合、格差社会の直撃を受けるのは、非正規労働層である。非正規社員の比率がほかの業界に比べて高い飲食やサービス業では、現在、雇用調整という名の「首切り」や「雇い止め」が進んでいる。
2021年3月の労働力調査では、パートやアルバイトなどの非正規雇用の就業者数は2054万人と、13カ月連続で前年を下回った。非正規は3分の2が女性で、その平均給与は正社員の3分の1。この格差は、今後ますます開き、日本の消費は落ち込む一方になるだろう。
日本のワクチン接種、「発展途上国」並み
日本のワクチン接種の異常な遅れが、問題になっている。これは、明らかに政府の失策だが、いまさら政府を責めても時間は元に戻らない。
英オックスフォード大学の調査によると、5月16日までに、日本で少なくとも1回ワクチンを接種された人の全人口比はたったの3.2%である。これは、途上国も含めた世界平均の約9%にも及ばないから、共同通信は「発展途上国並み」という見出しで報道した。
しかし、日本を「発展途上国」と言うのはおかしい。途上国はやがて中進国、先進国になっていく。とすれば、日本は、現状では「先進転落国」である。世界のワクチン接種状況を追跡するブルームバーグの「ワクチン・トラッカー」のデータを見ると、当初、出遅れが問題視された韓国は7.2%で100位となっている。
で、日本の順位はというと、韓国より下の124位である。
「東京五輪はやめるべき」などと、これまでさんざん日本を批判してきた「ワシントンポスト」紙は、5月11日付の記事で、「日本のワクチン接種率は破綻国家のミャンマーと同程度だ」と揶揄した。
完全に、日本をバカにしている。
世界がワクチンを確保しているときに「GoToトラベル」
イギリスでは、昨年5月、ジョンソン首相の要請を受けた医療分野の女性投資家がリーダーとなり、コロナ対策のタスクフォースを結成し、世界のワクチン開発情報の収集を開始した。また、オックフォード大学とアストラゼネカの開発チームに、開発資金を投入した。
そのころ、日本では、感染者数の少なさを「日本人にはファクターXがある」とか、「マスクを着ける、手を洗うなど日本人の勤勉律儀な国民性によって感染拡大は抑えられている」などと、言っていた。
イギリスもアメリカも、2020年11月にはワクチンの接種計画を完了させ、12月になると、ワクチン接種を開始した。イギリスの場合、打ち手の人数不足を予測し、ボランティアが注射できるよう、10月には法律を改正していた。
しかし、日本はそのころ、「GoToトラベル」キャンペーンを大々的に行なっていた。観光地は、旅行客でごった返していたのである。
このような新型コロナに対する対応の違い、予測の甘さ、科学的思考の欠如、組織の硬直化が、現在の日本の経済低迷を加速化させている。
もはや「経済か安全か」というトレードオフの議論など、いくらしても虚しいだけだ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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