連載559 山田順の「週刊:未来地図」なぜ日本は「デジタル後進国」になったのか?(完)

連載559 山田順の「週刊:未来地図」なぜ日本は「デジタル後進国」になったのか?(完)

デジタル堪能でもそれを言ってはいけない

 最後に、デジタル化が進まない究極の理由を書いておきたい。それは、デジタルスキルの優劣が、報酬に反映されないからだ。高度なスキルを持つSEやデータサイエンティストなどは別格として、フツーのデジタルスキルなら、いまの若い世代ならみな持っている。ワード、パワポ、エクセルからSNS、各種加工ソフト、映像ソフトなど、だいたい使いこなせる。

 しかし、これを彼らは職場で言わない。とくに、一般OLや派遣OLは、できてもわざと隠す。なぜ、隠すのか、その本音を私はこれまで何度も聞いた。

 たとえば、あるOLはこう言った。「うちの会社のおじさんたちは、ほとんどの人がパソコンが使えないんです。できてもメールのやり取りとネットを見ることぐらい。そんななかで、ワードで書類をつくれますとか、エクセルが使えますなんて言ったら、どうなると思いますか?ぜんぶ、やらされて酷い目にあいますよ」

 どこの役所、会社でもパソコンがあまり使えず、パワポのプレゼン資料さえつくれないおじさん上司が、いまだに高給をもらっている。その給料の半分しかもらえないOLが、なんで好き好んでおじさんの仕事をやらなければならないのだろか。

 こうして、デジタル度が低いおじさん上司たちは、デジタルと言うとなんでもかんでもIT業者に丸投げしてしまうのである。

デジタルスキルが格差を生まない日本

 デジタルスキルと同じことが、英語にも言える。日本の職場では、英語ができるなどとはけっして言ってはいけない。それがわかると、パソコンと同じように、おじさん上司から、英文資料を訳してくれとか、英文でメールを書いてくれなどと頼まれて、酷い目にあうのだ。

 要するに、日本ではスキルが報酬につながらず、組織は年功序列型になっている。これがある限り、本当のデジタル化は無理なのである。いま上に居座っているデジタル度が低いおじさん世代には、一刻も早く現場から去ってもらうしかない。

 そうしながら、学校教育で、次の時代を生きるためのスキルを子供たちに教えなければならない。デジタル(コンピュータ)スキルと英語(世界共通語)は、必須だ。これは、昔で言えば「読み書きそろばん」である。

 デジタルのスキルは、いま、世界で大きな格差(所得格差)を生み出している。そして、DXが進むにつれ、その格差は拡大しつつある。

 ところが、日本ではデジタルのスキルが格差を生まないのである。スキルや能力のない人間にとっては、まさに日本は天国だ。しかし、この天国は、デジタル化により、じきに大きく崩れて「デジタル地獄」がやってこようとしている。

(了)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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