連載560 山田順の「週刊:未来地図」賃上げして中小企業を淘汰すれば経済回復!? 無知の極みの管政権(上)

連載560 山田順の「週刊:未来地図」賃上げして中小企業を淘汰すれば経済回復!? 無知の極みの管政権(上)

 オリンピック強行開催(=本土決戦)も愚行だが、菅政権が進めている経済政策も愚かすぎる。コロナ禍のなかで、政府は最低賃金を引き上げ、中小企業を淘汰してしまおうと考えている。  しかし、そんなことをすれば失業者が増え、格差はさらに拡大する。その結果、経済回復など望むべくもなくなり、私たちの暮らしはさらに落ち込むだろう。  このまま行けば、コロナ禍後に一時的な消費拡大による享楽的な時期が訪れるが、その後、日本経済はどん底に沈むのではないだろうか。

 

首相と諮問会議が描く「バラ色の物語」

 さる5月25日(この記事の初出は6月9日)、経済財政諮問会議(議長・菅義偉首相)は、6月中に策定する経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の骨子案を提示した。それによると、日本は「賃上げを通じた経済の底上げ」をして、コロナ収束後の経済回復を目指すという。「地方創生」「グリーン社会の実現」「デジタル化の加速」などの言葉が並んでいるが、そのために最低賃金を引き上げ、多すぎる中小企業を淘汰するというのだ。

 これは、聞き捨てならないことである。なぜなら、そんなことをしたら、経済は回復するどころか、大きく落ち込んでしまうに違いないからだ。

 最低賃金の引き上げは、じつは、菅首相の肝いりの政策である。安倍前政権は、企業に賃上げを強いてきたが、それを強力に推進してきたのが菅首相だ。最低賃金の引き上げは、その延長線上にある。

 たとえば、2019年の経済財政諮問会議で、民間議員の新浪剛史サントリーホールディングス社長が5%程度の引き上げを主張した際、当時官房長官だった菅首相は、「私が言いたいことは全部言ってくれた」と全面支持を表明した。また、首相就任後の所信表明演説でも、最低賃金の引き上げに触れている。

 そして、昨年秋、菅首相は経済財政諮問会議のメンバーに、「中小企業淘汰論」を主張する元ゴールドマン・サックスのアナリスト、デービッド・アトキンソン氏を招いたのである。

 つまり、菅首相は、日本の生産性の低さの原因とされる中小企業を減らしたい。そして、最低賃金をはじめとして、国際的に低い日本人の賃金を上げる。そうすれば、経済はよくなり、国民生活は豊かになると考えているのだ。

 本当に、なんという愚かな首相だろうか。  まさに、知恵なき者の「夢想」とはこのことで、そんな「バラ色の物語」があるはずがない。

全政党、連合がこぞって「引き上げ」支持

 デジタルスキルと同じことが、英語にも言える。日本の職場では、英語ができるなどとはけっして言ってはいけない。それがわかると、パソコンと同じように、おじさん上司から、英文資料を訳してくれとか、英文でメールを書いてくれなどと頼まれて、酷い目にあうのだ。

 要するに、日本ではスキルが報酬につながらず、組織は年功序列型になっている。これがある限り、本当のデジタル化は無理なのである。いま上に居座っているデジタル度が低いおじさん世代には、一刻も早く現場から去ってもらうしかない。

 そうしながら、学校教育で、次の時代を生きるためのスキルを子供たちに教えなければならない。デジタル(コンピュータ)スキルと英語(世界共通語)は、必須だ。これは、昔で言えば「読み書きそろばん」である。

 デジタルのスキルは、いま、世界で大きな格差(所得格差)を生み出している。そして、DXが進むにつれ、その格差は拡大しつつある。

 ところが、日本ではデジタルのスキルが格差を生まないのである。スキルや能力のない人間にとっては、まさに日本は天国だ。しかし、この天国は、デジタル化により、じきに大きく崩れて「デジタル地獄」がやってこようとしている。

(つづく)

この続きは6月28日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

 

 

 

タグ :