連載561 山田順の「週刊:未来地図」賃上げして中小企業を淘汰すれば経済回復!? 無知の極みの管政権(中)
最低賃金を引き上げると失業者が増える
では、ここで考えて欲しい。賃金とは、経済の実体を映す鏡である。日本の賃金が低いということは、日本経済が成長していない、低迷してきた現れなのである。それを政治の力で無理やり引き上げたらどうなるだろうか?
賃金が経済の実体を反映しなくなったら、多くの企業の実績が落ち、かえって経済は低迷する。また、失業者が増える。こんなことは、経済学の常識なのに、なぜか、多くの人々はこれを知らないか、理解していないのだ。
最低賃金の引き上げは、一見すると、安い賃金で働く底辺労働者を助けるように思えるが、実際には逆で、弱者を切り捨てる。リバタリアンで知られる経済学者のウォルター・ブロックは著書『不道徳な経済学』で、「最低賃金法は雇用法ではない。失業法だ。雇われない人を決める法律だ」と言っている。
最低賃金を上げれば経営者は生き残るために、上がった最低賃金に見合わない人間をクビにする。つまり、最低賃金に見合わないスキルのない労働者が働くことも許されない社会になってしまうのだ。
賃金というのは固定費で、会社では払える額が決められている。たとえば、ある会社で1時間に払える賃金が40万円とすると、最低賃金が800円なら、40万円÷800=500で、最大500人雇える。しかし、最低賃金が1000円になると、40万円÷1000=400で400人しか雇えなくなる。つまり、100人は失業してしまうのだ。
毎年5%ずつ引き上げていくとどうなるか?
政府は最低賃金を毎年3%~5%引き上げていきたいとしている。そこで、毎年5%ずつ引き上げていくと、どうなるかを考えてみよう。
単純に、最低賃金は5年で1.28倍に、10年で1.63倍になる。ということは、現在の最低賃金である全国平均902円は3年目に1000円を突破し、5年目に1100円、10年目に1400円を超えることになる。 しかし、この間、同じスピードで経済は成長するだろうか? 成長して企業の業績が上がらなければ、最低賃金の上昇は企業も労働者も苦しめるだけだ。
最低賃金で働くのは、アルバイトやパート労働者である。こうした労働者の労働で、零細企業、中小企業は成り立っている。したがって、最低賃金が上がれば、企業の選択は3つしかない。
(1)雇用を保ってコストカットを進めて経営を維持する。
(2)雇用を削って縮小均衡を図る。
(3)経営が成り立たないので廃業をする。
(1)ができる企業はほとんどなく、多くは(2)を選択する。つまり、企業はリストラを進めることになる。
ヨーロッパ諸国には最低賃金法がない。
菅政権はデジタル化を進めると言っている。このデジタル化によっても、時給で働く非熟練労働者は職を奪われることになる。最低賃金の引き上げによるリストラとデジタル化により、アルバイトやパート労働者は、ダプパンチで職を失っていく。しかも、そうした人々の多くは、社会を支えるエッセンシャルワーカーである。
このように、政治による力ずくの最低賃金の引き上げは、じつは、もっとも助けなければいけない人々を切り捨てることになるのだ。
このことがわかっているから、ヨーロッパ諸国には最低賃金法がない。アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマークなどの北欧諸国、オーストリア、ドイツ、イタリア、スイスには、政府の義務付ける最低賃金法は存在しない。
福祉国家として知られる北欧諸国に最低賃金法がないと言うと、日本のリベラル、左翼は驚く。それほど、彼らは経済に無知だ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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