連載562 山田順の「週刊:未来地図」賃上げして中小企業を淘汰すれば経済回復!? 無知の極みの管政権(下)

連載562 山田順の「週刊:未来地図」賃上げして中小企業を淘汰すれば経済回復!? 無知の極みの管政権(下)

 

非熟練労働者は労働組合のライバル

 欧米では、「同一労働同一賃金」が当たり前である。労働市場にも「一物一価の法則」を当てはめている。EUでは、フルタイム社員とパートタイム社員が同じ仕事をしている場合、1時間あたり同じ賃金を支払う「均等待遇」を加盟国に義務付けている。

 アメリカには、明確な法規定はないが、「差別を徹底的に排除する」という観点から、「同一労働同一賃金」が、原則的に実現している。

 しかし、日本では、正規労働者(正社員:無期雇用フルタイム労働者)と非正規労働者(アルバイト、パートなど:有期雇用労働者)の間には、厳然たる待遇の差、賃金の格差がある。日本では、正規労働者は高度経済成長期に培われた「年功序列」や「終身雇用」システムに、いまだに守られている。

 こうした労働市場では、最低賃金の引き上げは、欧米よりもっと過酷な「弱者いじめ」を生む。

 前記した経済学者のブロックによると、最低賃金の引き上げに反対の声が上がらない理由は2つあるという。

 1つは、有権者の多くが経済に無知なこと。もう1つは、不利益を被る犠牲者の裏で利益を得る人々がいることだ。それは、とくに労働組合である。

 労働組合にとっては、組合に属さず、安い賃金で働く非熟練労働者は、強力なライバルである。そのため、彼らを労働市場から締め出し、自分たちの安泰を図るために、安い賃金での労働を禁じる最低賃金法は都合がいいのだ。

アメリカでも最低賃金の引き上げが

 じつは、近年、アメリカでも最低賃金の引き上げが進んでいる。現在いくつかの州で時給15ドルが実現している。

 そうした流れを受け、バイデン大統領は、4月27日、連邦最低賃金を現在の10.95ドル(約1200円)から3割超引き上げ、15ドル(約1600円)にする大統領令に署名した。これにより、連邦政府の機関と契約する業者は、2022年1月30日以降の新規雇用について、同年3月30日までに既存雇用についても15ドルが義務付けられることになった。つまり、来年からアメリカ全土で最低賃金は15ドルになる。

 自由主義、資本主義の「総本山」とされるアメリカも、このような愚かなことをするのだ。バイデン政権は、こと労働に関しては完全な左翼政権と言える。

 ただし、アメリカの場合、日本と違って経済が成長しているので、最低賃金の上昇の副作用は少なくてすむだろう。

 さらにバイデン政権は、ギグワーカーを従業員ではなく、独立した請負業者とみなすとしたトランプ前政権時代の規則を撤回することを決めてしまった。ギクワーカーとは、たとえばウーバーのドライバーなどで、彼らを従業員にしてしまうと、どうなるだろうか?  彼らも、連邦法で定める最低賃金や残業代の対象となってしまうのだ。

 ウォルシュ労働長官は、この措置を「労働者の権利を保護し、労働者を保護する」と述べたが、わかっていない。政府が最低賃金やそのほかの労働者保護策をすればするほど、労働者は苦しむのである。ギグワーカーが最低賃金や福利厚生の対象となれば、コストの上昇から、企業はギグワーカーを使わなくなってしまう。左翼政府が言う「保護、福祉」とは、じつは自由の剥奪である。

(つづく)

この続きは6月30日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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