連載566 山田順の「週刊:未来地図」コロナで出生率低下、出生数激減、 従来の考え方では少子化は止まらない!(中2)

連載566 山田順の「週刊:未来地図」コロナで出生率低下、出生数激減、 従来の考え方では少子化は止まらない!(中2)

 

少子化と「失われた30年」は一致する

 今日まで、なんとか少子化を解消し、社会・経済に活力を取り戻そうと、いろいろなことが言われ、それなりの対策も取られてきた。

 しかし、いずれも失敗に終わっている。そこでまず、今日まで言われてきた少子化の原因をまとめておきたい。

 私は今日まで、少子化の原因を主に経済的な面で捉えてきた。それは、バブル崩壊後の「失われた30年間」と少子化の進行がほぼ一致しているからだ。

 子どもは結婚によって生まれてくる。とすれば、結婚に経済的なメリットがなく、子育てにコストがかかれば少子化は進んでいく。

 それにしても、年々、結婚しない男女が増えた。同時に、晩婚化も急速に進んでいる。2015年の国勢調査による「生涯未婚率」は男性が23.4%、女性が14.1%。2000年には男性が12.6%、女性が5.8%、1990年には男性が5.6%、女性が4.3%だったから、社会は大きく変わってしまった。

 なにしろいまは、男性の4人に1人、女性の8人1人が生涯結婚しないのだ。

 そこで、なぜ、結婚しないのかと考えると、経済的に結婚が見合わなくなっている現実が浮かび上がる。

ここ30年で結婚のかたちが大きく変わった

 私は、男女の恋愛を至上のものと考えている。しかし、恋愛至上主義的な価値観だけでは、男女は結婚できない。かつて「恋愛→結婚」が成り立ったのは、その背景に男が仕事をして稼ぎ、妻を食べさせ、なおかつ育児コストも負担できるという社会状況があったからだ。

 ところが、このパターンがバブル崩壊とともに崩れた。

 サラリーマンとOLという会社社会はなくなり、労働者は正規と非正規に2分化。そのなかで、結婚して共働きをして生計を立てていくという選択が主流になった。ところが、あまりにも経済が低迷し続けたため、このパターンもほぼ成立しなくなったのが現代である。

 いまや結婚しての「2人暮らし」は、「1人暮らし」より、はるかにコストがかるようになってしまった。

 よく女性の社会進出が進み、それとともに結婚しない生き方が増え、少子化の原因になったと言われる。たしかに、そうした面もあるが、日本の場合、専業主婦が減って働く女性が増えたのは、男女同権化が進んだというようなことより、はるかに経済的要因が大きい。少子化と女性の社会進出を結びつけるのは、私には的を射ていないと思える。

 それなのになお、いまも結婚相手に独占欲から専業主婦を求める男性が多い。しかし、現在それが可能なのは、年収で最低で600万円が必要である。現在の日本人男性の平均給与は567万円。しかも、その平均年齢は43.1歳だ。

 これでは、ほぼ誰も、従来型の結婚生活はできない。

交際相手がいない「草食男子」が激増

 すでに共働きすら合理的ではなくなったのに、それに追い打ちをかけているのが、育児コストの上昇、教育費の高騰だ。家計調査によると、日本の家庭の育児と教育にかかるコストは先進国ではもっとも大きい。

 こうなると、「子どもを持つと暮らしが大変。子どもを持てないなら結婚しても意味がない」という思考になってしまい、結婚に対するインセンティブがなくなってしまう。

 かつての「サラリーマンOL社会」では、人事評価には結婚がプラス評価だった。結婚していない男性社員はいいポストにつけない傾向があった。「結婚して子どもがいて1人前」と言われた。いま、こんなことを言ったら、即刻、セクハラ、パワハラとなるだろう。

 こうして、進んだのが男性の性欲の低下だ。流行語で言うところの「草食化」である。恋愛の延長としての結婚は、男女ともに安定したセックス相手の確保でもあったが、それができなくなくなり、男性は「草食男子」と化してしまったというわけだ。

 交際相手を持たない未婚者の割合は、2000年をピークにして上昇している。

 国立社会保障・人口問題研究所の調査(2015年)によると、「交際している異性はいない」と回答した未婚者の割合は男性69.8%(前回61.4%)、女性59.1%(同49.5%)。また、交際相手を持たず、かつ交際を望んでいない未婚者は、男性では全体の30.2%、女性では25.9%を占めている。

 また、大学生の性体験率も近年大きく低下している。性教育協会の2017年の調査では、男性が47%、女性が36.7%である。

 では、こうした傾向は、日本だけのものなのだろうか?少子化が進んできた欧米諸国でも、同じようなことが起こっているのだろうか?

(つづく)

 

この続きは7月7日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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