連載568 山田順の「週刊：未来地図」コロナで出生率低下、出生数激減、従来の考え方では少子化は止まらない！（完）

連載568　山田順の「週刊：未来地図」コロナで出生率低下、出生数激減、従来の考え方では少子化は止まらない！（完）

07/08/2021

連載568　山田順の「週刊：未来地図」コロナで出生率低下、出生数激減、従来の考え方では少子化は止まらない！（完）

江戸から明治期に標準家庭はなかった

　最近、読んだ本で、山田氏の本とともに感心したのが、前田晃平氏の新刊『パパの家庭進出がニッポンを変えるのだ！ママの社会進出と家族の幸せのために』（前田晃平・著、光文社、2021.5）だ。

　前田氏は、若い世代の子育てパパだけあって、この時代のなかで問題の本質を捉えている。

　前田氏は、いまに続く標準家庭が出現したのは、大正時代だと述べる。「外で働くお父さんと、家を守るお母さん、子どもは2人」という家族のかたちが、このころ突如出現したのだという。そして、なぜか今日まで続き、政治家は後生大事にそれを守ろうとしているというのだ。

　では、それ以前の日本はどうだったのだろうか？

　たとえば、幕末の江戸と現代の東京を比較してみると、未婚率がほとんど変わらないどころか、むしろ、地域によっては江戸のほうが高い。江戸から明治にかけて、都会では生涯独身を貫く人がいたり、その反面でほとんどの住民が結婚している農村もあったり、かと思えば離婚が盛んだった地域もある。現代よりはるかに多様な家族観が共有されていたという。

　つまり、いまの標準家庭は伝統的家族でもなんでもなく、一時的なもの。それを理想として、政策を立てても少子化は絶対解決しないと、前田氏は言うのだ。

多様性が進みすぎて生物学的に変化？

　いまや、世界的に、結婚やカップルのあり方、子育てなど、すべてが大きく変わっている。LGBTのカップル、結婚も認められ、多様性がますます進んでいる。そんななかで、人類はどうやって次世代を育んでいくのかが問われている。

　アメリカのABCの人気ドラマ「モダンファミリー」や、女優シンシア・ニクソンの生き方などを見ていれば、日本で議論されている少子化対策など、ばかばかしくて聞く気になれないだろう。

　フィンランドは、フランスやスウェーデンと同じように少子化に悩んできたが、フランスやスウェーデンに匹敵する、いやそれ以上の対策を打ってきたにもかかわらず、少子化が止まらない。2010年の出生率1.87から、2019年には1.35にまで低下している。

　社会福祉の充実度は北欧でいちばん。子どもが生まれれば手厚く保護され、まさに社会全体で子育てしてくれる。男女同権も確立され、首相は女性で、閣僚の半数以上も女性。国連の幸福度ランキングで2年連続トップ。そんな国がなぜ少子化になるのかは、本当に謎だ。

　いろいろな説があるが、もしかしたら、人類は子どもをあまりつくらない方向に、生物学的に転換しているのかもしれない。ここ1世紀ほど続いた伝統的な家族のかたちは、本来の人類の姿ではないのかもしれない。

旧来の発想のままの「子ども庁」創設

　現在、政府自民党は、「『こども・若者』輝く未来創造本部」を立ち上げ、菅首相の号令の下で「こども庁」設置に動いている。

　こども庁は、2022年の発足を目指しているが、まだ、具体的な中身は決まっていない。ただ、少子化対策が目玉になるのは確かだ。

　しかし、いくら形を整え、対策をつくっても、それが旧来の発想からでは少子化は解消されないだろう。

　これまで、菅内閣から発信された情報を見ると、少子化対策と言える具体的な施策は、不妊治療の健康保険適応、結婚後の住宅入居支援ぐらいで、いずれも旧来の発想と変わらない。これでは、こども庁は「こどもだまし庁」になってしまう。

（了）

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」（1996）、「出版大崩壊」（2011）、「資産フライト」（2011）、「中国の夢は100年たっても実現しない」（2014）、「円安亡国」（2015）など。近著に「米中冷戦中国必敗の結末」（2019）。
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