連載572 山田順の「週刊:未来地図」コロナワクチン誕生秘話(1) 誰も注目しなかった女性科学者の研究(上)
世界中で、新型コロナウイルスのワクチン接種が猛スピードで進んでいる。いまや、ワクチンこそがコロナ禍から脱出できる唯一の手段になったようだ。
しかし、さまざまな報道があるというのに、なぜか日本では、ワクチンができた経緯に関しては、よく知られていない。報道されるのは、ワクチンの効果や接種の是非論ばかりだ。
そこで、今回から2回、ワクチン誕生の秘話をまとめて伝えたい。まずは、今回のワクチン誕生は、あるハンガリー人の女性科学者の研究が基になっていること。彼女がいなかったら。ファイザーとモデルナの「mRNA」ワクチンは誕生していなかった。
2回目はファイザー、モデルナのほうがいい
先日、アメリカでジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のコロナワクチン接種完了者が、再度ファイザーやモデルナのワクチンを打つ必要があるのかどうかが議論されているというニュースが伝えられた。
ご承知のように、J&Jワクチンは1回の接種で済む。しかし、インド株(デルタ株)などの「変異種」(ヴァリアント:variant)が蔓延するに際して、その効果が疑われるようになった。そこで、変異種に対しても効果が高いとされるファイザーやモデルナを、追加で打ってはどうかというのだ。
じつは、この結論は、すでに欧州では出ていると言っていい。日本では、厚労省に有効なデータも研究意欲もないので、ワクチンは単に杓子定規的に接種されているだけだが、欧州は違う。
ファイザーなら3週間後、モデルナなら4週間後という2回目接種の厳格な規定はなく、治験に基づいて6週間後から11週間後を選択する国が多い。そのほうが、「中和抗体」(Nab:neutralizing antibody)が多くできるからという。
そのため、ドイツのメルケル首相は、1回目はアストラゼネカだったが、2回目はモデルナを選択し、期間も8週間をあけている。イタリアのマリオ・ドラギ首相も、1回目はアストラゼネカだったが、2回目はファイザーを選択している。
ウイルスベクターよりmRNAのほうが効果的
アストラゼネカとJ&Jのワクチンは、「ウイルスベクター」(viral vector)型である。これに対してファイザーとモデルナは「メッセンジャー・アールエヌエー」(mRNA)型。つまり、欧州ではウイルスベクターの効果は十分ではなく、mRNAのほうが効果があるとされているのだ。
ワクチンにはさまざまな種類がある。「生ワクチン」「不活性化ワクチン」などが、これまで行われてきた伝統的な製造方法でできたワクチンである。ワクチンの起源は、エドワード・ジェンナーが、牛痘を人間に接種することによって天然痘を予防できると実証したことにさかのぼるが、これが生ワクチンである。
また、不活化ワクチンは、ウイルスや細菌を増殖不能にするなどして毒性をなくし、免疫をつくるのに必要な成分だけを製剤にしたものだ。
しかし、遺伝子研究が進むにつれて、まったく新しいワクチンの製造方法が研究、試作されるようになった。その代表例が、ウイルスベクターワクチン、mRNAワクチンである。今回のコロナ禍により、こうした遺伝子レベルでのワクチンが初めてつくられたわけだが、その新ワクチンでいまのところもっとも効果があるとされるのが、mRNAワクチンだ。
そして、このmRNAワクチンができるにあたっては、ある女性科学者の研究が多大な貢献をしていたのである。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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