連載574 山田順の「週刊:未来地図」コロナワクチン誕生秘話(1) 誰も注目しなかった女性科学者の研究(下)

連載574 山田順の「週刊:未来地図」コロナワクチン誕生秘話(1) 誰も注目しなかった女性科学者の研究(下)

 

ドイツのビオンテックが研究に着目

 ところが、ドイツの企業ビオンテックが、突如として、彼女の研究に目をつけた。ビオンテックの創業者のウール・シャヒン博士と妻のエズレム・テュレジ博士は、ともにトルコ系ドイツ人。2人とも医師で最先端医療の研究者だったので、彼女の研究の価値を見抜いたのだ。

 2人はさっそく彼女をドイツに招き、研究継続への道を開いた。mRNAは、体内で炎症反応を引き起こしてしまうため、長年、薬などの材料として使うのは難しいと考えられていた。しかし、カリコ博士とワイスマン教授の共同論文は、mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を「シュードウリジン」に置き換えると炎症反応が抑えられることを指摘していた。

 ここに、ビオンテックは着目したのである。

 新型コロナウイルスの表面には「スパイクたんぱく質」(spike protein)と呼ばれる突起があり、ウイルスはここを足がかりとして細胞に感染する。mRNAは、この突起の部分のいわば「設計図」にあたり、ワクチンを接種すると、これをもとに細胞の中でウイルスの突起の部分だけが体内でつくられる。

 そして、この突起によって免疫の仕組みが働き、ウイルスを攻撃する「抗体」(antibody)がつくられる。

 2020年3月、ビオンテックはアメリカの製薬大手ファイザーとmRNAを用いた新型コロナウイルスワクチンの開発を開始すると発表し、世界を驚かせた。それは、すべてカリコ博士の研究成果の基づくものだった。

ビル・ゲイツ氏が5500万ドルの資金援助

 有効率95%というファイザーのワクチンは、ファイザーがつくったものと思われているが、その大元はビオンテックのトルコ系の生化学者ウール・シャヒン博士と妻のエズレム・テュレジ博士、そして、ハンガリー系のカタリン・カリコ博士の研究成果によるものだ。

 ファイザーは主に製造と販売を手がけたにすぎない。いくら開発できても、大量に生産できなければ、ワクチンとしての価値はない。

 ビオンテックは、元々がんの免疫治療を研究開発するために設立された会社だった。しかし、カリコ博士が参加してからは、mRNAの医療への活用に注力するようになった。

 この研究に注目したビル・ゲイツ氏の「ビル・メリンダ・ゲイツ財団」は、2019年に5500万ドル(約61億円)の資金提供をし、その後、ビオンテックはナスダックに上場した。

 いまや、ビオンテックの株価は、ワクチンの成功で天井知らずになっている。

(つづく)

 

この続きは7月20日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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