連載576 山田順の「週刊:未来地図」コロナワクチン誕生秘話(2) なぜ日本はワクチン開発ができなかったのか?(上)
昨日の記事で述べたように、ファイザーとモデルナの「mRNA」ワクチンは、ハンガリー人の女性科学者カタリン・カリコ博士の長年にわたる研究がベースになっている。これを、医療ベンチャーのビオンテックとモデルナが促進させて実用化し、アメリカ政府は安全保障の面から最大限のサポートをした。
それを思うと、なぜ日本がワクチン開発をできなかったのか? あらためて検証しないわけにはいかない。
日本は、遺伝子研究の医療分野への適用で大きく立ち遅れ、政府には安全保障を考えた戦略的な思考がまったくなかった。
日本製ワクチン誕生に沸き立つメディア
6月28日、塩野義製薬は、開発中の新型コロナウイルスワクチンについて、年末までに最大6000万人分の生産体制が整うとの見通しを明らかにした。これまでは、3000万人分を目指してきたが、治験の過程で、1人当たりの投与量を抑えて倍の人数に接種できる可能性が出てきたので、可能になったというのだ。
この発表を、多くのメディアは「朗報」として報道した。いよいよ、待ちに待った日本のワクチンができる。これを朗報と言わずとしてなにを朗報というのだといった感じである。
しかし、私は、いまさら日本のワクチンができたとしても、それを接種する気はない。なぜなら、日本製がすぐれているというのは、もはや過去の神話にすぎないからだ。
日本の遺伝子研究の医療分野への適用は、決定的に遅れている。世界では遺伝子治療薬が次々と開発されているのに、日本ではほとんど開発されていない。こんな状況で、日本がファイザー・ビオンテックやモデルナに匹敵するワクチンがつくれるとはとても思えないからだ。
欧米ワクチンを超えるものができるのか?
塩野義製薬が、現在、開発・治験中のワクチンは、開発研究の共同相手が旧体質の国立感染症研究所であり、ワクチンも旧来型の「遺伝子組換えタンパクワクチン」である。
遺伝子組換えタンパクワクチンというのは、新型コロナウイルスの遺伝子の一部を組み込んだ「パキュロウイルス」(ヒトに感染しないウイルス)に昆虫の細胞を感染させて、コロナウイルスの表面にある「スパイクたんぱく質」をつくり、それをワクチンとして投与するもの。スパイクたんぱく質が、体内の免疫作用を促進する「抗原」(antigen)となって、「抗体」(antibody)がつくられるという仕組みだ。
この原理は、鶏卵で培養してつくられる従来の季節性インフルエンザのワクチンと同じだ。つまり、ある程度確立されている技術なので安全性は高いが、有効性は治験を終えてみないとわからない。
ということは、どう見ても、ファイザー・ビオンテックとモデルナに匹敵、あるいはそれを超えるものができるとは思えない。
つまり、いくらメイドイン・ジャパンといっても、医薬品だけに効かなければ意味がないし、後発品だけに市場に受け入れられなければ、まったくの無駄になる。
私が危惧しているのは、日本製ワクチンが日本人だけにしか受け入れられないことだ。そんなことになったら、開発は本当に無駄に終わってしまうだろう。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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