連載584 山田順の「週刊:未来地図」五輪強行開催後の日本経済: 不況は深刻化し、株価も不動産も下落する悪夢(下2)

連載584 山田順の「週刊:未来地図」五輪強行開催後の日本経済: 不況は深刻化し、株価も不動産も下落する悪夢(下2)

 

「サンクコスト」の回収にこだわって墓穴

 これだけカネを使えば、それを取り戻したいと考えるのは当然だ。しかし、それはビジネスの話で、政府や開催都市は事業をしているわけではないので、税金で取り戻すほかない。取り戻せるのは放映権料が丸ごと入るIOCだけである。

 それなのに、なぜか、政府も東京都もサンクスコストの罠にはまった。

 サンクコストは、「初期費用」や「維持費」と同じく、事業の意思決定に大きく影響する。しかし、よくよく考えれば、それはもう支出してしまったものなのだから、開催決定の判断材料にするのは愚かだ。政府が本当に判断材料にすべきは、コロナのほうだった。

 ここで先の経済効果に話を戻すが、もし、五輪開催で、コロナ感染が拡大したとしよう。すると、さらに莫大なコストが発生する。緊急事態宣言は2週間で1兆円のマイナス効果があると言われる。

 感染者増で医療費が増える。死者が出れば生命保険金が支払われる。これらを、プラスの経済効果とする見方もあるが、これが間違いなのは言うまでもないだろう。

想定外だったデルタ株によるリバウンド

 希望的観測というのは恐ろしいものだ。

 ついこの間まで、ワクチン接種が進めば、コロナの感染拡大は収束に向かい、日常生活は戻ってくると思われていたし、実際、そうなりつつあった。

 ところが、デルタ株(インド由来株)が出現して世界に広まると、話が変わった。

 デルタ株が従来株から置き代わった国で、再び感染拡大が始まる「リバウンド」が起きたからだ。

 7月に入ってから、最速でワクチン接種が進んだイスラエルでも、アメリカでも英国でも、リバウンドが起きた。イスラエル政府の発表では、イスラエルではすでにデルタ株が新規感染の9割を超え、国内で最初にデルタ株が確認された4月中旬と比べると、1日当たりの新規感染者数は2倍に増えている。ただし、ワクチン効果で、重傷者、死者は減っている。

 この傾向は、アメリカや英国でも同じだ。

 とはいえ、この想定外の出来事が世界の経済回復に大きく影響するのは間違いない。コロナ禍からの回復による「熱狂」は訪れず、そうした相場にもならず、結局、経済回復は緩やかに進むだけになる。いまや、ワクチンは3回目のブースターが必要とされるようになり、ファイザーは3回接種の認可を求めている。これでは、一気に昔の日常に戻れるわけがない。

(つづく)

 

この続きは8月11日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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