連載585 山田順の「週刊:未来地図」五輪強行開催後の日本経済: 不況は深刻化し、株価も不動産も下落する悪夢(完)
アメリカも中国も消費回復に陰りが
7月に入り、世界的に株価の不安定が続いている。もはや、これまでの上昇は望めない様相になっている。株以外の金融資産も、みな動きが不安定になっている。この背景に、デルタ株の感染拡大への不安心理があるのは間違いないだろう。
しかも、デルタ株の感染拡大と同時進行で、米中両国の経済回復に陰りが出てきた。
アメリカでは消費者物価指数(CPI)が市場予想を上回る伸びとなり、インブレ傾向が強まるとともに、個人消費に陰りが見えるようになった。コロナ禍では、「消費の半分はアマゾン」と言われ、オンラインショッピングが主流になった。その傾向が続き、消費額そのものが減ったようだ。
また、サービス業では人手不足が起こり、製造業では半導体不足で生産量が落ち、景気回復がスローダウンし出している。
いち早く回復したとされた中国経済だが、最近は、その回復力に力強さがなくなってきた。とくに、中国の個人消費は十分に持ち直していない。それが端的に現れたのが旅行消費額だ。
1人当たりの旅行消費額は、コロナ禍以前よりも、まだ2割程度低い。1度、生活スタイルが変わると、それはいっぺんに戻らないのかもしれない。
米中両国の回復のスローダウンは、当然、日本にも大きく影響する。まして、日本はまだ回復途上にもなっていない。五輪が終わっても、消費は低迷したままになるのは間違いないだろう。
失敗五輪のツケが私たちに回ってくる
いまや、日本の飲食業や観光業は、いよいよもたなくなってきている。五輪後、こうした業界から倒産が続出すれば、ほかの産業も影響を受け、いくら量的緩和であろうと、株価も影響を受けるだろう。
最近の日銀は、これまで大量買いしてきたETF買いをやめ出した。これでは、株価はだらだらと下落していくか、いつか大幅な下落に見舞われる。
負動産価格も下落は続く。すでに発表された2021年の公示地価は、全国平均(全用途)で6年ぶり、住宅地で5年ぶりに、商業地で7年ぶりに下落となり、コロナ禍の影響による下落傾向は歯止めがかかっていない。この傾向は、五輪後はいっそう加速する。
「実体経済の悪化」に「株安」「不動産安」が加わり、さらにインフレ傾向になっていく。これは、日本経済が奈落の底に向かっていくことを意味している。しかも、それはじわじわと、である。日本国民の7割がワクチンを打ち終えるのは、どう見ても早くて11月。悪くすると年を越すかもしれない。それまでの間に、総選挙も控えている。
政権交代に期待する向きもあるかもしれないが、現状ではそれが起こっても経済回復はありえない。どんな政権になろうと、次に私たちを待っているのは、失敗五輪の清算である。
1976年のモントリオール五輪の負債は約1兆円とされた。この負債は、モントリオール市民が被り、モントリオール市民は2006年まで特別税というかたちこれを返済した。なんと、30年もかかったのである。
今回の東京の負債は、とてもそんなものではすまない。
(了)
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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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