連載586 山田順の「週刊:未来地図」とうとう開幕! 東京「利権五輪」の裏面史を総括する(上)
東京五輪の開幕直前に思うのは、なぜ、日本はこんなに情けない国になってしまったのかということ。30年前なら、いくらパンデミック下とはいえ、日本は対策を万全にして、整然と五輪を開催できただろう。それが、この体たらくである。
なぜ、こうなってしまったのだろうか?
それは、五輪を開催すれば、長年の経済低迷から脱出できる、東日本大震災から復興できると信じて、政治家、政府官僚、経済界が、利権に走ったからである。そのため、“利権のデパート”IOCに食い物にされてしまった。
開幕を前に、ここまでの「裏面史」を総括し、ダイジェストでお伝えしたい。(この記事の初出は7月20日)
無観客、無歓声で視聴率30%行くかどうか
「TOKYO2020」の開会式は、7月23日(金)20時から、新装なった国立競技場で行われる。いまさら言うまでもないが、関係者しかいないスタンドを見ながら各国選手団は行進する。
無観客、無歓声。これではやはり盛り上がらない。 史上最大規模の日本選手団が登場しても、聖火が点火されても、ワーッという歓声も起こらなければ、嵐のような拍手も起こらない。本当に、なんでこんなオリンピックを日本は開催することになってしまったのだろうか?
関係者によると、NHKは開会式中継で、当初、「視聴率50%越え」を目標としていたという。しかしいまでは「30%しか行かないのではないか」いう見方が有力だ。「始まってしまえば、国民は熱狂する」と官邸は目論んでいたが、もはやそんな雰囲気はどこにもない。首相以下、オロオロしているだけだという。
ちなみに、これまで視聴率がもっとも低かった開会式は、西側諸国がボイコットした1980年のモスクワ大会の11.2%。このときはNHKでなく、テレビ朝日が放映した。
最近の視聴率を見ると、リオデジャネイロ、ロンドンがともに24.9%で、北京が37.3%。北京が高かったのは時差が1時間で金曜日の夜だったためだ。
前回の東京五輪、1964年の開会式の視聴率は、なんと61.2%。ほとんど日本中が見た。あの日、10月10日は土曜日で、会社も学校も午前中で終わり、多くの国民が家や街頭で、当時まだ白黒だったテレビの画面にかじりついた。
小学生だった私も、家でテレビの前に座り、北出清五郎アナの名調子「世界中の青空を全部持ってきたような、素晴らしい秋日和でございます」というアナウンスに興奮した。そして、古関裕而作曲のオリンピックマーチが流れると、小さな胸が高鳴った。
しかし、そんな感動は戻ってこないばかりか、オリンピックの歴史、いや輝かしい日本の戦後史に泥を塗ることになってしまった。
コロナ禍ではっきりわかった「利権五輪」
もし、新型コロナのパンデミックがなかったら、東京五輪はどうなっていただろうか?と、考えることがある。その結論は、「かえってよかったのでは」である。
というのは、コロナ禍によって、五輪が「平和の祭典」ではなく「利権の祭典」だとわかったこと。さらに、日本が抱える数々の問題がわかったからだ。
開会式を例にとれば、無観客が決まるまで二転三転したが、常に言われていたのが「関係者枠の削減は困難」ということだった。それで、2万人を上限とする案などが次々と出された。
そこで、観客数の内訳を調べてみると、以下のようになっていた(五輪組織委員会が公表)。
一般観客席:9300
スポンサーなどの大会関係者席:1万500
IOCや議員などの貴賓席:7300
合計で2万7100席だが、このうちスポンサー枠がもっとも多く、一般席の割合は35%にも満たない。つまり、これは五輪が一般の人々のためでなく、利害関係者、すなわちスポンサーと五輪貴族、利権政治家のためのものであることを如実に物語っている。
東京五輪の経費は、組織委の予算だけで1兆6440億円、関連費用を合わせると3兆円をはるかに超える。このうち、IOCの負担分はたったの1410億円、割合にして8.5%にすぎない。 私たち日本国民は、IOCに食い物にされたとしか言いようがない。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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