連載589 山田順の「週刊:未来地図」とうとう開幕! 東京「利権五輪」の裏面史を総括する(下1)
東京決定の裏にアベノミクスの財政出動
こうして、開催の大義名分を手に入れた東京五輪だったが、実際に開催が決まったのは、単にカネの問題だった。2013年のIOC総会で残った候補地は、わずか3都市。東京以外は、スペインのマドリードとトルコのイスタンブール。このうち、もっとも可能性があったのが、イスタンブールだった。
その理由は、イスタンブールが「中東、イスラム圏で初めて開かれる五輪」になることで、南米初の五輪となったリオの次の開催都市としてもっともふさわしいと考えられたからだ。
しかし、トルコには、大きな問題があった。リーマンショック後の景気後退から、トルコ政府が大きな経常赤字を抱えていたことである。そのうえ、テロの不安もあり、イスタンブールは五輪のための財政支出に耐えられないのではないかと見られていた。
これは、マドリードも同じで、財政面から開催は困難と見られていた。しかも、バルセロナからまだそれほど経っていない。
ところが日本は、経済低迷にあえいではいたが、2012年末に発足した安倍政権が、大規模な財政拡大政策を取り始めていた。それまでの民主党政権が削減した公共事業を復活させ、日銀は世界でもありえない「異次元緩和」に乗り出していた。いわゆる「アベノミクス」である。
つまり、日本ならカネを出せる。五輪をやれると、IOCサイドは踏んだのだ。こうしたムードを察知し、日本は招致員会とJOCとで予算を2つに分け、裏金まで用意して招致に走ったのである。
2020年3月、ロイターは、組織委の理事を務める電通元専務の高橋治之氏が、五輪招致委員会から820万ドル(約9億円)相当の資金を受け取り、IOC委員らにロビー活動を行っていたと伝えた。
さらに、招致委は、森喜朗元首相が代表理事・会長を務める非営利団体「一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター」にも約1億4500万円を支払っていた。
不祥事続出で、次々と関係者が辞任
東京五輪は、いつからか「呪われた五輪」と言われるようになった。以下、順を追って、発覚した不祥事を見ていこう。
開催決定後の最初の不祥事は、石原元都知事から都政を受け継いだ猪瀬直樹氏の辞任だった。2013年12月、医療法人徳洲会から多額の資金提供を受けていたことが発覚し、猪瀬知事は五輪の表舞台から去った。その後、彼が示した「コンパクト五輪」という構想がいかにデタラメだったかが明らかになった。
彼の後を継いだのは、舛添要一氏。この知事も、2016年6月、あまりにせこい「公私混同」疑惑の言い逃れができずに辞任した。
とはいえ、東京五輪のもっとも大きな不祥事は、2015年7月、新国立競技場のデザインを担当したザハ・ハディド氏の辞任だろう。組織委は当初、彼女の建設案、総工費2520億円を丸呑みしようとしていた。しかし、猛批判を受けて白紙撤回せざるをえなくなった。結局、総工費は1569億円に圧縮されたが、それでもなお「かかりすぎだ」と批判された。
続いて、公式エンブレムのパクリ疑惑が発覚した。ベルギーの劇場のロゴマークと酷似していたことで、盗用と判定され、2015年9月、デザイナーの佐野研二郎氏は辞任した。
2018年12月には、招致をめぐる買収疑惑が発覚した。JOCの竹田恒和会長がフランス当局から聴取を受けたことが明るみに出るや、批判が渦巻いた。竹田氏は潔白を主張したが、2019年3月に辞任に追い込まれた。
それから1年後、2020年3月、コロナ禍により五輪史上初の1年延期が決まり、同年9月、1年延期を決めた安倍晋三首相までが、逃げるように辞任した。
そして、今年、2021年2月、組織委の森喜朗会長が女性蔑視発言により辞任した。
このとき、五輪関係者の1人は「これで東京五輪というものを最初から知っている人が全員いなくなった。五輪ができるのか本当に不安だ」と、もらした。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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