連載590 山田順の「週刊:未来地図」とうとう開幕! 東京「利権五輪」の裏面史を総括する(下2)

連載590 山田順の「週刊:未来地図」とうとう開幕! 東京「利権五輪」の裏面史を総括する(下2)

 

目的が喪失し、意味なきコンセプトで開幕

 主要人物がコロコロ変わったこと以上に五輪を迷走させたのが、この五輪が「誰のために、なんのために開催するのか」、まったくわからなかったことだろう。

 当初、日本政府は、震災復興が世界の共感を得たと説明した。首相が「アンダーコントロール」と大見得を切ったのだから、これは当然の成り行きだった。

 ただし、政府の思惑は、土建政治の復活による経済振興だった。つまり、前回の東京五輪が忘れられず、開催すれば景気を引っ張れる、大きな経済効果が得られると踏んだのだ。しかし、この発想は完全に時代遅れだった。五輪をやると、その後は不況になり、国民負担が増すだけ。利権にありつけるのはIOCだけなのだ。

 このように建前と本音が違い、時代認識までズレていたのだから、不祥事は起こるべくして起きたと言える。

 新国立競技場にしても、公式エンブレムにしても、そのほか、さまざまなオリンピック関連施設、関連イベントにしても、コンセプトがバラバラで、明確なメッセージがなかった。共通するのは、なんとなく「日本らしい」という点だけだ。

 結局、このオリンピックを通して、日本が世界になにを伝えたいのか、最後までわからなかった。

 そのため、延期が決まると、安倍前首相は「人類がコロナに打ち勝った証しとして開催する」と言い出し、これを丸ごと、菅義偉首相が受け継いでしまった。この知恵のなさは、本当に救い難い。

 7月14日、組織委は、オリンピックとパラリンピックの開閉会式のコンセプトを発表した。4式典の共通コンセプトは、「Moving Forward」(ムービング・フォワード=前進)で、五輪開会式は「United by Emotion」(ユナイテッド・バイ・エモーション=感情の結実)、同閉会式は「World we share」(ワールズ・ウィ・シェア=分かち合う世界)」とされた。

 しかし、まったくなにも伝わらない。単なる美しい言葉の羅列で、英語はいいとしても、その日本語訳がとって付けたようで気持ちが悪い。いまさら、「前進」とか、「感情の結実」とか、「分かち合う世界」とか、バカバカしくて、まともに聞いていられない。

「感動」を売りにボランティアをかき集め

 ところで、コンセプトの一つ「United by Emotion」は「感動を一つに」とも訳せ、ある意味で、「感動」を押し売りしている。この世界には、スポーツになど興味がない人間も大勢いるのだ。

 また、「感動」と言えば、五輪ボランティアは「感動詐欺」にひっかかったようなものである。

 すでに散々批判されてきたように、今回の五輪ボランティアは、まったくの無償で「ただボラ」「奴隷労働」と呼ばれてきた。最低で10日間の活動が義務付けられ、すべて自己負担、自己責任で行うとされたからだ。

 それが批判されると、組織委は1日1000円までの交通費、弁当1食分を支給すると表明、さらに保険加入も追加決定した。しかし、それ以上のことはしなかった。

 そのため、たとえば、地方から東京に来てボランティアをする場合、上京費用、宿泊費はすべて自分で出すことになった。  私は、これで本当に募集枠の8万人が集まるのかと思ったが、なんと20万人が応募したので、本当に驚いた。応募した人々は老若男女、多種多彩だが、オリンピックをこの目で見たい、その感動を現場で分かち合いと応募したと言うので、もっと驚いた。

 ここで言う8万人とは、組織委が集めたボランティアで、正式には「フィールドキャスト」と呼ばれる。それ以外に、開催都市の東京などが集めた都市ボランティア(こちらは「シティキャスト」と呼ばれる)が3万人いるので、ボランティアの総数は、なんと12万人である。

 これを、「感動」を売りにした「詐欺」と呼ばずになんと呼ぼう。 

(つづく)

 

この続きは8月19日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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