連載592 山田順の「週刊:未来地図」とうとう開幕! 東京「利権五輪」の裏面史を総括する(完)

連載592 山田順の「週刊:未来地図」とうとう開幕! 東京「利権五輪」の裏面史を総括する(完)

 

パソナは一社独占で五輪に人材派遣

 それにしても、いまも納得できないのは、組織委が「ただボラ」をかき集める一方で、ボランティアと同様の仕事を人材派遣会社のパソナグループに業務委託したことだ。これは、ネットなどで堂々と募集され、時給1700円、あるいは日給1万3000円などで「おいしいバイト」とされた。

 しかも、一部報道では、パソナは1人につきこの10倍の額で、組織委に請求しているという。

 パソナグループは組織委のスポンサー企業の一つで、選手村や競技会場の運営の業務委託に携わることになっている。不可解なのは、今回の五輪のスポンサー契約が、従来と違って1業種複数社とし、より多くのカネをかき集めようとしたにもかかわらず、人材派遣だけパソナ1社の独占契約になっている点だ。

 掘り起こせば、パソナ以外にも不可解な契約は数多くあるはずだが、メディアはそれを報道しない。なぜなら、メディア自身もスポンサー契約を結んでいるからだ。

 今回、スポンサー契約をしたのは、朝日、読売、毎日、日経、産経、北海道の6新聞社。報道機関が五輪と利益を共にするのは、読者に対しての報道責任の放棄と言える。

 また、メディア各社は、社員記者を組織委の内部組織「メディア委員会」に派遣し協力している。これでは、五輪の正確な報道ができるわけがない。

招致委と組織委は隠蔽工作をする民間団体

 このように、東京五輪は完全な「利権五輪」で、その構造を紐解いていけば、さまざまなことが浮かびあがってくる。五輪が終われば、そのなかのいくつかが、正義感に燃えたメディアや記者によって暴かれるだろう。

 しかし、いくら利権構造が暴かれ、私たちの血税が浪費されたとわかっても、責任追及はできそうもない。それは、前記したように、すでに関係トップがほぼいなくなったうえに、組織そのものが情報開示と説明責任という認識が欠けている民間機関であるからだ。

 五輪を招致した招致委も組織委も民間機関である。このような組織がなにをするかと言えば、ずばり隠蔽工作だ。

 長野五輪の招致委員会は、IOCへの過剰接待や9000万円の使途不明金を含む帳簿を、解散後に焼却処分してうやむやにしてしまった。また、今回の東京五輪の招致委であるNPO法人「東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会」は、9億円にも上った海外コンサルタント料の帳簿を消失したと言って済ませてきた。

 まだある。開催地決定直前のIOC評価委員の東京視察の際は、東京都が7億円を拠出したとされたが、実際は招致委からも6億円が拠出されていた。IOC評価委員の東京視察というのは、コンパクト五輪の現場を見るためのものだった。しかし、視察はたった3日間。この3日間に、なんと、合計13億円ものカネが、「おもてなし」として使われていたのである。これでは、東京に決まって当然ではないだろうか。

五輪貴族も組織委もトンズラ、ツケは国民に

 正式名「東京オリンピック・パラリンピック競技大会」は、よほどなにかが起きなければ、2021年7月23日に開幕し、9月5日に閉幕する。

 この期間が終わると、組織委は解散し、組織自体が消滅する。そうなれば、それまでの数々の不祥事、浪費、赤字の責任はうやむやにされる。今回も、また会計帳簿は公開されないだろう。

 組織委ばかりか、東京都、政府は責任を押し付け合い、誰も責任を取ることなく、すべては闇に葬られるだろう。

 五輪開催は、いまの日本が抱える数々の問題を、一時的にごまかすものだったとも考えられる。しかし、コロナ禍により、問題は逆に顕在化してしまった。

 となれば、五輪後、国民は立ち上がり、現在の腐敗した政府を一掃し、日本を変えていかねばならない。

 五輪が終われば、五輪貴族らはさっさと東京を引き上げる。彼らにとって、東京がどうなろうと知ったことではない。スイスのローザンヌのレマン湖畔にあるIOC御殿(本部ビル)のなかで、優雅に次の北京冬季五輪を待てばいいだけだ。五輪貴族も組織委も政治家もトンズラしたあと、そのツケを払うのは私たち国民だ。

 東京五輪は、想像もつかないほど巨大な「負の遺産」を残すのは間違いない。それを覚悟して乗り越えなければ、日本の明日はない。

(了)

 

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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