連載594 山田順の「週刊:未来地図」もはや完全に時代遅れ 五輪が「オワコン」となったこれだけの理由(中1)
理由(2)コンパクトは口先だけで不可能
当初、東京五輪は「コンパクト五輪」とされた。招致当時の猪瀬直樹都知事は、これを強調した。ベイエリアの選手村を中心に半径8キロ圏内に主要な競技会場を集中させるとした。メーン会場も、国立競技場を改修して、8万人収容の五輪向けスタジアムにするとした。 しかし、それは口先だけに過ぎなかった。
コンパクトを提唱した都知事は現金受け取りが発覚して辞任し、コンパクトを推奨したIOCは、コンパクトと逆行する過去最多の339種目の実施を決めた。しかも、日本はそれを嬉々として受け入れ、そのために予算を拡大させたのである。 新施設が建設され、会場も首都圏以外に拡大し、マラソンは札幌で開催するという、都市開催という伝統的スタイルから完全に逸脱してしまった。
さらに、IOCは開催都市には表向きコスト削減を求めながら、その裏では「五輪貴族」と呼ばれる自分たちに対して、大会期間中の最高級ホテルの滞在とVIP待遇を要求した。これもまた、東京は受け入れたのだから、信じがたい。
もし、コロナ禍がなければ、東京はその費用を本当に払っていただろう。 2014年のロシアのソチ冬季五輪は、510億ドル(約5兆6000億円)がつぎ込まれたとされ、これまでの五輪史上最高額を記録した。2008年の北京五輪も、400億ドル(約4兆4000億円)が注ぎ込まれたという。すべて、当初の予算額をオーバーしていた。記録をさかのぼると、1960年のローマ五輪以降の五輪で、当初予算で収まった五輪はない。
理由(3)大きなパーティを開きたいという欲求
これまでの五輪開催の予算を見ていくと、商業五輪に舵を切ったロサンゼルス五輪をのぞいて、ほとんどが赤字である。開催都市、開催国負担をいいことに、IOCは過剰な要求を繰り返し、開催都市、開催国はそれを受け入れる構図になっている。
なんで、開催都市、開催国は、予算拡大を受け入れてしまうのだろうか? それは、単純に言うと、五輪が世界一大きな「パーティ」「イベント」だからだろう。パーティ、イベントとなれば、誰もがより大きなパーティ、イベントを開きたいと思う。この心理によって、都市、国家が競い合い、「史上最高の五輪にしたい」という競争が起こる。ここを、IOCは巧み突き、政治家や関係者は利権に走るのだ。
さらにここに、もう1つの理由として、開催が初めてというファクターが加わると、費用はさらにかさむ。これまでの五輪の歴史で、2回以上開催したのはパリ、ロンドン、アテネ、今回の東京しかない(冬季五輪はのぞく)。つまり、これまでの32回の歴史で、開催が初めてという都市がほとんどのため、経験がない。これほどの規模のイベントを開催した経験がなければ、費用が超過してしまうのは、むしろ当然とも言える。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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